JR只見線“全線開業100周年”に向けて

2071年8月29日、JR只見線は全線開業から100年を迎えます。

その時、只見線は“観光鉄道「山の只見線」”として、国内外の旅行者や旅行会社にとって不可欠の存在で、『只見線に、また乗りたい』『只見線に、次はいつ乗ろうか』と多くの方々が言葉を交わしていて欲しいと私は思っています。同時に、只見線が沿線自治体に観光産業を根付かせ、もたらされた交流人口によって沿線自治体が活気付いている事も願っています。


只見線は観光都市・会津の重要な導線でもあり、観光都市・会津の価値を高める存在です。只見線利用による会津地方への観光客増加は、福島県にとっても、情報発信や原子力災害の風評意識の更新など、多大な好影響をもたらす可能性を秘めた事象で、“只見線全線開業100周年”を迎える事は県民全体の課題でもある、と私は考えています。  

しかしながら、“只見線全線開業100周年”に向かっては困難が予想されます。

沿線の人口減少はもとより、気候変動による大雨や大雪などの自然災害による運休や路盤・設備へ工事が必要なほどの被害、そして国と地方が抱える巨額赤字のためです。

 

この困難を克服し“只見線全線開業100周年”を迎えるためには、仕掛けが必要だと私は考えています。

只見線は観光鉄道だと沿線自治体や福島県民に認識される雰囲気を創り、国内外の旅行者や旅行会社が“観光鉄道「山の只見線」”を当然のように受け入れる文化が醸成され、旅行先の定番として只見線が定着することで、万が一只見線が災害により不通になっても、当然のように復旧され全線135.2kmが一本につながり続けるために必要な仕掛けです。

 

私が考える、3つの仕掛けは次の通りです。

(1) 専用観光列車“リゾート会越”(仮称)の導入

(2) 沿線自治体による「景観条例」の設定に合わせた「無電線・無電柱化」

(3) “只見線百山”(仮称)の選定と“只見線百山”登山への誘い 

もちろん、この他にも、

・ホテル・旅館などの宿泊施設数の増加と、個人旅行に対応したゲストハウスなど宿の多様化

・大雪や雪崩対策で頻繁に運休してしまう脆弱性の解消

・駅移転(会津塩沢駅)、駅新設(会津橋立駅・会津叶津駅 *ともに仮称)

など只見線には取り組むべき課題が多くありますが、私は“3つを仕掛け”が“観光鉄道「山の只見線」”の基礎となり、沿線にJR東日本含む民間の“投資”が進み、これらの課題は徐々に解消されるのではないかと思っています。

 

JR只見線が“全線開業100周年”を迎え、“観光鉄道「山の只見線」”として福島県の観光業をけん引し、訪福・交流人口の増加に寄与する未来を強く願い、3つの仕掛けについて以下に記します。



(1) “リゾート会越”(専用観光列車)の導入

観光路線に観光列車は欠かせません。特に、沿線自治体が生活利用から観光誘客に政策目標を変えた只見線には、専用観光列車が不可欠です。

只見線が「利活用計画」で参考にしている五能線(秋田県・東能代~青森県・川部)には3編成もの専用観光列車「リゾートしらかみ」号が運行され、全線を一日最大3往復(一部を除き秋田⇔青森間)しています。*参考:東日本旅客鉄道㈱ のって楽しい列車「リゾートしらかみ」  

五能線のように専用観光列車が3編成・6往復運行されれば、観光客向けではない只見線の不便過ぎるダイヤも改善され、一石二鳥の効果があります。*下図出処:㈱JTBバブリッシング「2022年10月 JTB時刻表」 *一部抜粋、臨時列車消去など筆者加工

導入方法

案として、まずは只見線を長らく走り愛されたキハ40形を取得・改造するという方法が考えられます。

既存列車の改造は、全国の多くの路線で採られている方法で、費用が抑えられるというメリットがあります。この改造観光列車をできるだけ早い段階で運行させ、『只見線は、いつも観光列車が走っている』という事実を周知し、乗客数の実績を積み上げる、という方法が考えられます。そして、この“改造車両の観光列車”が運行している間、最新の車両導入に向けた活動をしてゆきます。福島県が導入費用を捻出するのであれば、“只見線新型観光列車導入基金”(仮称)などを設け、数年単位で積み立てて行くという方法が考えられます。*「リゾートしらかみ」号の最も新しい「橅」編成(HB-E300系)は1編成14億円と言われている

 

この新型車両導入で、只見線沿線が“水力発電所銀座”であることから、水力発電で製造された“グリーン水素”を用いた列車を導入するのも考えられます。これは国内外への訴求力の高い夢のプロジェクトになり、広く理解が得られ、クラウドファンディングに加え、国の支援も受けられるのではないでしょうか。*参考:経済産業省 資源エネルギー庁「次世代エネルギー「水素」、そもそもどうやってつくる?」(2021年10月12日) / 東日本旅客鉄道㈱「水素をエネルギー源としたハイブリッド車両(燃料電池)試験車両製作と実証試験実施について」(PDF)(2019年6月4日)

 

*観光列車の導入については、2022年10月1日の只見線全線運転再開以後、復旧区間(会津川口~只見間)を“上下分離(官有民営)”方式で福島県が所有しているため、費用の処理方法や列車の帰属を含めJR東日本との協議が必要になります

 

JR東日本との協業について

只見線の専用観光列車について、現時点ではJR東日本の全額負担で導入してもらうことはできないと思われます。管内屈指の赤字区間を持つ路線で、“上下分離方式”で復旧した経緯を考えれば、振興策(只見線利活用計画)の成果が表れていない段階での只見線に対する巨費の投資はできないからです。

そうなると、“上下分離方式”で只見線の運営に関わる福島県が、費用搬出と所有に関わり、

①観光鉄道導入費用について、JR東日本と費用負担割合を決める

②車両はJR所有か福島県が所有しJRに貸し出すのが良いのかを決める

などの必要事項を定め、契約を交わす必要があると思われます。


さらに、只見線は福島県と新潟県にまたがる路線である事に加え、JR東日本の東北本部(会津若松~只見)と新潟支社(只見~大白川)で管理エリア別れているという事情もあるので、両県と両支社間それぞれの意識統一・連携が欠かせません。

  

  

 

列車の名称(案)

私は「リゾート会越(かいえつ)」という名が良いと思います。

只見線が趣の違う山間の沿線風景を、会津(福島県)と越後(新潟県)の双方に持つ、というのが「リゾート会越」の命名の理由です。“リゾート”は、只見線が観光鉄道の手本としている五能線を走る「リゾートしらかみ」を意識したものです。

 

3編成の名称は、「みずかがみ」・「せせらぎ」・「かいえつ」というのはどうでしょうか?

①「みずかがみ」編成:(福島県側)只見線の列車内から連続して見られる、只見川のダム湖に現れる水鏡から

②「せせらぎ」編成:(新潟県側)只見線に沿って流れる末沢川と破間川の清流から

③「かいえつ」編成:会津と越後から *紅葉や雪景色の行楽シーズン以外は、磐越西線を利用し、福島県と新潟県間の周遊観光列車として利用する

 

 

 

発着駅

最後に、「リゾート会越」の発着について。私は、新幹線停車駅である郡山駅(磐越西線起点)と浦佐駅(只見線終点の小出駅から最も近い駅)が良いと考えています。首都圏からの観光客の利便性を高め観光需要を取り込むため、只見線を挟むようにある東北新幹線の郡山駅と上越新幹線の浦佐駅です。*「リゾートしらかみ」号は秋田駅と新青森駅(発着は青森駅)という五能線を挟んだ2つの新幹線駅を結び、旅行商品の価値を高めています

新潟県側の発着駅について、『県下第二位の人口規模を持つ長岡市にある長岡駅』という声も多いかもしれませんが、首都圏の乗客の利便性を考えると浦佐駅が妥当だと思います。*浦佐~長岡間は41.7Km(新幹線で12分)。浦佐~小出間は8.3㎞(普通列車で8分)、長岡~小出間は33.4㎞(普通列車で37分)。単純計算で只見線に乗り入れる小出駅まで、浦佐駅8分長岡駅49分の乗車時間が首都圏の乗客に必要

 

ただ、浦佐駅を発着にする場合には、現状2回の方向転換が必要で、将来的には小出駅構内に上越線の上下線と接続するポイント増設が必要と私は考えます。首都圏の旅行者にスムーズな浦佐駅発着提供するポイント増設は、“只見線全通100周年”に向かうために必要は投資だと私は思っています。*長岡駅発着の場合は、「リゾートしらかみ」号同様、1回の方向転換(1回)が必要

 

 

 

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(2)「景観条例」制定と「無電柱・無電線化」

景観条例の制定

会津若松市内と魚沼市小出地区以外、只見線沿線に高層や平屋根の建物は非常に少なく、車窓から都会の“コンクリートジャングル”とは異世界の、のどかで心穏やかになれる景色が見られます。特に金山町の会津水沼~会津大塩間(20.3km)では、車窓から大きなトタンの入母屋屋根を持つ家屋が立ち並ぶ姿見られ、人里の景観の良さは突出しています。

 

この景観を守り、“観光鉄道「山の只見線」”の価値を維持するためにも沿線自治体で「景観条例」の制定が必要だと思います。なお、沿線で自治体規模が最も大きい会津若松市では「景観条例」を定め、平成29年4月1日からは国の「景観法」を根拠に、大型建築物や屋外広告の規制や政策誘導を盛り込んだ改正を行っています。*参考:会津若松市「景観条例について」URL: https://www.city.aizuwakamatsu.fukushima.jp/docs/2009020200153/ /「景観法(平成16年制定)の概要」URL: http://www.mlit.go.jp/common/000232650.pdf / 国土交通省「景観まちづくり」URL: http://www.mlit.go.jp/toshi/townscape/index.html / 「美しい国づくり政策大綱」URL: http://www.mlit.go.jp/keikan/taiko_text/taikou.html / 福島県「景観条例」URL: https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/16035b/shizenhogo14.html

想定する「景観条例」は、既存のトタンの入母屋屋根を持つ家屋の、外観を維持したリフォームやリノベーションを推奨し補助を出すと同時に、“只見線のレールから〇〇〇m以内に新たな建物を建築する場合には....”という条件下で、屋根の形状や建物高さを制限したり、景観に配慮した色合いやデザインを建築主に求める、という細かく具体的な内容が必要だと考えます。*参考:景観法「第三章 景観地区等/第一節 景観地区/第二款 建築物の形態意匠の制限」URL:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=416AC0000000110

 

 

無電柱・無電線化

この“只見線沿線景観条例”は、無電柱・無電線化(電柱・電線地中化)の積極的推進を事業者に求める項目も盛り込むことで、「景観条例」の質は高まります。

現状、只見線の列車に乗っていると『ここで電柱・電線が見えなかったらもっと良いのに』と思うことしばしばです。

只見線沿線の電柱を地中化し、積極的に空中架線を無くしてゆくことは、景観の質を高めるばかりか、新たなビューポイントを生み出す可能性があり、“観光鉄道「山の只見線」”の魅力と価値を高めるはずです。*参考:国土交通省「無電柱化」URL: https://www.mlit.go.jp/road/road/traffic/chicyuka/index.html / 福島県「電線共同溝」URL: https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/41035d/densenkyoudou.html

 

電柱・電線地中化事業は、“只見線沿線景観条例”を根拠に(おおもとは国の「景観法」)、只見線の路盤から〇〇〇m以内の電柱は地中化する、またビューポイントになりそうな場所は車窓から見える範囲で行うという施則を設け、福島県(只見線管理事務所)が中心となり、沿線自治体と東北電力・NTTなどが協議を行い、契約を締結する。そこに至るまでには、情報を収集し国の補助事業になるように事業計画に盛り込む、という動きも必要になります。


車窓から電柱・電線が見えない風景を提供できれば、“観光鉄道「山の只見線」”は、特に首都圏のなどの都市在住の旅行者を惹きつける、と私は思います。

 

 

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(3) “只見線百山”の選定

只見線全線開業100周年を迎えるためには、沿線自治体が経済効果=税収で恩恵を受け、観光産業の裾野が広がる事が欠かせません。そのためには、只見線の乗客が駅で降りて、滞在時間を延ばし食事や宿泊をしてもらうことが必要です。場所(観光地)を増やすという方法もありますが、私はアクティビティーの環境整備をして客を増やすのが良いと考えます。アクティビティーならば、観光客が沿線外に移動してしまうという“悲劇”の発生の可能性を抑えられるからです。

 

アクティビティーは、“観光鉄道「山の只見線」”ということで、キャンプや釣りなどの山に関するものがありますが、私はまずはシンプルに「登山」が良いと思い、魅力・訴求力を高めるために、昭和村を含めた只見線沿線と会津地方・魚沼地方の山々の中から“只見線百山”を選定するのはどうかと考えました。登山道やビューポイント・案内板の整備を進めて、『只見線を利用して“只見線百山”に登ってみよう』と広く周知するのです。只見線沿線の山々は1,000m前後の低山が多く、老若男女を問わず登山を楽しめる可能性を秘めています。

そして、“只見線百山”が沿線自治体に持続的な経済効果をもたらすために、沿線自治体と関係者が只見線に乗って“只見線百山”に登る方々を10年20年30年と歓迎し、気持ちよく登ってもらえ雰囲気や文化を創り出してゆきます。そうすれば、“観光鉄道「山の只見線」”との相乗効果で、“只見線百山”は沿線に経済効果や観光産業の定着をもたらしてくれるものと思います。

 

言うまでもなく、“只見線百山”の選定はゴールではなくスタートです。“只見線百山”を基盤にし、キャンプや釣り、雪遊びなど他の山のアクティビティーを誘発・定着させることで、さらに民間投資や地元の方による起業につながってゆくと考えます。

 

 

【私選“只見線百山”】

只見線百山”の選定には、最終的には地元の了承とそれぞれの山を知る各地の山岳会の協力が必要ですが、それまでに次のような課題もあります。

・民有地か?国有地(国有林)か? 許可は得られるか? 民有地ならば所有者不明地ではないか?

・越後只見国定公園、只見ユネスコエコパーク、それぞれの域内にある山で登山道整備ができるのか? できるのであれば、どこまで(ルート内の枝木の伐採、案内板の設置など)可能か?

・登山道が整備できない藪山の場合、早春の残雪期に登ることになるが、雪庇崩落やクレバス滑落などを回避する安全性は担保できるのか?


ここでは、只見線沿線2市6町1村(新潟県魚沼市と福島県昭和村を含む)を中心に、A.只見線の列車の中から見える、B.只見線の列車を撮影すると映り込む、という条件の孤立峰や山頂が容易に識別できるなど沿線の山々を優先的に、さらに以下条件で選定しました。*近接する山や登山道上にある山は、複数を1つの山としている、“只見線百山”を次の条件で選定

沿線(昭和村を含めた1市6町1村)にある「会津百名山」 *マイナー12名山の「丸山岳」と、沿線に登山口が無い「神籠ヶ山」は除く

「会津百名山」の中で沿線自治体ではないものの、a.登山口が鉄道では只見線の駅が最寄り、b.只見線の駅から登山口付近まで二次交通(バス、乗合タクシー等)が運行されている、という山  ex.西会津町「木地夜鷹山」、南会津町「明神岳」「尾白山」など

新潟県魚沼市内の「新潟百名山」 ex.「未丈ヶ岳」、「荒沢岳」、「平ヶ岳」 *マイナー12名山の「毛猛山」は除く

沿線(2市6町1村)内の一等・二等の三角点峰 *「高幽山」(只見町)は山間の深淵部であるため除く

沿線自治体にはないが、会津や魚沼地方を代表する山 ex.檜枝岐村「燧ヶ岳」「尾瀬ヶ原・尾瀬沼」、喜多方市「飯豊山」、猪苗代町「磐梯山」、南魚沼市「八海山」

福島県側の近世の街道の峠、またはその峠に近い山  ex.(会津)銀山街道「石神峠」「吉尾峠」、越後街道「束松峠」 

沿線自治体の観光案内に取り上げられているトレッキングスポット ex.只見町「恵みの森」、金山町-只見町「癒しの森」、魚沼市「御嶽山」(月岡御岳山遊歩道)

  

私選“只見線百山”は、東北以北最高峰の「燧ヶ岳」(2,356m)があるものの、他2,000m級は5座のみです。200mから1,000m未満の低山が多く、低い山で登山スキルを磨きながら、終盤で「飯豊山」や「平ヶ岳」に挑み、只見町の“寝観音様”(横山ー猿倉山ー大川猿倉山)を経て、最後は只見川源流の「尾瀬沼」「尾瀬ヶ原」を訪れて、「燧ヶ岳」に登りフィナーレを迎えるという物語を紡ぐことも可能です。

また、中には登山道無し(不明)の山もありますが、これらは残雪期にワカンやスノーシューを履いて登るというスノートレッキングを想定しています。奥会津の山々に至っては、山肌に雪食地形・雪崩路(アバランチシュート)が多く見られ、低山ながらもや趣味ある登山が楽しめます。

 

列車を使って登山に訪れれば、その地で宿泊や食事する可能性が高まります。また、登った山と只見線を走る列車と一緒に写真に収められる、となれば撮影のためさらに滞在時間が延長され、経済効果が期待できます。

 

*“只見線百山”の主な候補

*お断り:1~100の山を、上記条件を元に選定しましたが、次のような山は「候補」としナンバリングしませんでした。

・二等三角点峰だが、山間の深淵部にあり、登山記録も見当たらない ex.「小金井山」「中の又山」
・特徴的な山容を持つが、判断がつかない ex.「かくんば山」
・源頼朝奥州征伐恩賞による「会津四家」の(横田)山ノ内家の「山ノ内七騎党」持城と「山ノ内家六固城」の一部