只見町「鳥越山」登山/昭和村 二等三角点「黒岩」 探索 2023年 紅葉

私選“只見線百山”候補の検証登山。今日は、「鳥越山」(980.2m、只見町)と二等三角点「黒岩」(1,055.5m、昭和村)に登るため、JR只見線・只見駅から林道鳥越鳥居峠線に向かい、それぞれの三角点標石を探した

*参考:

・福島県:只見線ポータルサイト

・福島県・東日本旅客鉄道株式会社 仙台支社:「只見線全線運転再開について」(PDF)(2022年5月18日)

・福島県:平成31年度 包括外部監査報告書(PDF)(令和2年3月) 「復興事業に係る事務の執行について」 p140 生活環境部 生活交通課 只見線利活用プロジェクト推進事業

 

 


 

 

只見線の始発列車に乗るために、会津若松市内に前泊。今朝、未明の会津若松駅に向かった。

先日紛失したため新たに調達した輪行バッグを抱え、駅舎に入ると、正面に「ぽぽべぇ」のパネルが立ち、脇のボードには“只見線紅葉状況”が記され、会津若松~会津川口間8割程度、只見~小出間9割となっていた。

 

切符を購入し改札を通り、只見線の4ー5番線ホームに向かうため連絡橋を渡り見下ろすと、列車を待つ人の姿があった。“観光鉄道「山の只見線」”が、最も魅力を発揮する紅葉期の集客力の高さを感じた。

ホームに下りて他の客とともに列車を待っていると、なんと、やってきた列車はキハE120形の単行(1両編成)だった。紅葉期とはいえ平日ということで、平時の“単行運用”になったのだろうと思った。

 

6:08、小出行始発列車が、会津若松を出発。会津若松~只見間の料金は1,690円。

今日は平日で、いつもお世話になっている「小さな旅ホリデー・バス」(2,720円)が使えないため、只見駅までと帰りの会津横田駅から(1,520円)の普通乗車券を購入したが、郡山駅と会津若松駅の往復乗車券と合わせ、今回の鉄道運賃は5,000円を超えた。平日2日間有効の“只見線フリーパス”が3,000円で企画されれば、福島県の人口集積地である中通りからの旅行者が増え、沿線の経済効果だけではなく、只見線への県民の“マイレール意識”も高まり、“観光鉄道「山の只見線」”を強固に下支えするのではないか、と改めて考えた。

 

 

列車は、七日町西若松を経て大川(阿賀川)を渡った。

会津本郷を出発直後に会津美里町に入り、会津高田根岸新鶴を経て外は徐々に明るくなってはきたが、濃霧は晴れなかった。

若宮手前で会津坂下町に入り、列車は会津坂下に停車。上り・会津若松行きの始発列車とすれ違いを行った。

 

 

会津坂下を出ても、車内の混雑は変わらなかった。客のほとんどは旅行者という出で立ちで、小出までの乗り通し客と思われた。漏れ聞こえる会話から、首都圏からの客が多いようだった。

列車は塔寺を経て“七折越え”を終えて会津坂本に停車。貨車駅舎に描かれた「キハちゃん」が見送ってくれた。*参考:会津坂下町「只見線応援キャラクター誕生!!」(2015年3月13日) https://www.town.aizubange.fukushima.jp/soshiki/2/3337.html

 

 

柳津町に入った列車は、会津柳津郷戸滝谷を経て、滝谷川橋梁を渡り三島町に入った。*以下、各橋梁のリンク先は土木学会附属土木図書館デジタルアーカイブス歴史的鋼橋検索

滝谷川橋梁は、“只見線八橋”の前座(会津若松発の列車の場合)を務めるが、線内で一番の桁下高を誇り橋上からの眺めが良い。車内では下流側の車窓で“撮影会”が行われた。

“撮影会”はこの後、“只見線八橋”のみならず、只見川が近付く度に繰り返された。その光景を見る度に、只見線がこの紅葉期にもつ“観光力”を実感した。

  

 

会津桧原の出て、桧の原トンネルを抜け「第一只見川橋梁」を渡った。上空は薄曇りで陽光が足りなかったが、駒啼瀬の渓谷の両岸は、綺麗に色付いていた。*只見川は東北電力㈱柳津発電所・ダムのダム湖

カメラをズームにして「第一只見川ビューポイント」の最上部Dポイントを見ると、30名を超える人影があった。

 

会津西方を出発直後に「第二只見川橋梁」を渡った。 *只見川は柳津ダム湖。

 

 

7:29、会津宮下では、上り2番列車(会津川口発)との交換(行き違い)を行った。キハ110の単行列車が入線すると、ホームに降りた客がカメラを構えて出迎えた。

会津宮下を出発した列車は、東北電力㈱宮下発電所の背後と宮下ダムの脇を駆けた。この区間は右側(北)の車窓ここでも車内では“撮影会”が始まり、多くの客がそれぞれ両側の車窓に近づきスマホやカメラのシャッターを切っていた。

一時、只見川から離れると、まもなく列車は茶色の上路式トラス「第三只見川橋梁」を渡った。

陽光が差さず残念だったが、上流側は見頃な木々の色付きだった。*只見川は宮下ダム湖


早戸を出た列車は、金山町に入り、大きく左に曲がり細越拱橋を渡った。

 

会津水沼を出ると、「第四只見川橋梁」を渡った。平成23年7月新潟・福島豪雨の被害から復旧で、この先の“只見川八橋”は。この「第四橋梁」と同じく、鋼材に覆われた下路式トラス橋が続くようになった。*只見川は宮下ダム湖

 

 

8:05、会津中川を経た列車は、小出始発の一番列車が交換待ちをする会津川口に到着した。

ホームで写真撮影をしたり、駅舎内の売店で買い物をする客に交じり、県立川口高校の生徒が数名降りていった。

 

 

会津川口を出発し、「第五只見川橋梁」を渡った。復旧工事で付け替えられた真新しい2間の橋桁と、豪雨に耐えた下路式トラスの接続部分が見えた。

大きく蛇行している上流側は、広い水面に周囲の景色を映し込んでいた。*只見川は東北電力㈱上田発電所・上田ダムのダム湖。 

 

本名を出た列車は、国道252号線を跨ぎ「第六只見川橋梁」を渡った。

東北電力㈱本名発電所・ダムの直下に架かっている「第六橋梁」では、今までの橋上からの景色とは一変するため、よい多くの客が車窓に近づき、“撮影会”が行われていた。

 

本名トンネルを抜け橋立地区に入ると、只見線(135.2km)中間点を示す看板(ここが、只見線の真ん中だ!)の前を通り過ぎた。

 

会津越川を経て、会津横田に停車。駅舎(待合室)では、天井材の補修工事が行われていた。

今年8月に天井のひび割れを確認し、約3ヶ月後の工事だった。福島県が上下分離方式で保有し、維持管理を担っている会津川口~只見間では、今後のこのような工事が増えるだろうと思われた。*下掲記事:福島民報 (左)2023年6月9日付け、(右)2023年8月19日付け紙面より

 

会津横田を出ると、真新しい茶色の下路式トラスが目につく「第七只見川橋梁」を渡った。

  

 

会津大塩を出た列車は滝トンネル(1,615.2m)を抜け、只見町に入った。分厚い雲が変わらず、塩沢地区上空を覆っていた。*只見川は電源開発㈱滝発電所・ダムのダム湖

 

会津塩沢に停車し、9月末に取り付けられた新しい駅名標を見た。塩沢地区の、今は滝ダム湖に沈んだ村医宅で息を引き取った長岡藩家老で軍督の河井継之助の“終えんの地”を示すものだが、これも福島県が設置したものだ。*参考:只見町「河井継之助記念館

 

会津塩沢を出発した列車は、まもなく「第八只見川橋梁」を渡った。*只見川は滝ダム湖

対岸(右岸)の電源開発㈱寄岩泊地の前では浚渫船とタグボートが動き、浚渫工事の様子が見られた。

  

会津蒲生でも、“蒲生岳登山口”と記された、新しい駅名標を見た。

列車が八木沢地区の背後を駆け抜けると、只見線内最長の「叶津川橋梁」(372m)を渡った。 

 

 

 

 

9:07、列車は只見に到着。ホームには、驚くほどの数の観光客が待っていた。真っ赤な衣装のご婦人などが異彩を放っていて、中華圏からの観光客のようだった。

私は輪行バッグを抱え降り、乗降客で賑わうホームから長い連絡道を歩き、駅舎を抜けて駅頭に出た。駅頭に置かれた、只見線全線運転再開カウント“アップ”ボードは404(日)を示していた。 

 

9:10、駅頭に待機していた「自然首都・只見号」に乗り込むと、私1人乗せたワゴン車が只見駅前を出発した。

「自然首都・只見号」は、只見川の支流である伊南川沿いに延びる国道289号線を東に進んだ。福井地区に入る頃から陽が差すようになり、青空が徐々に広がった。

 

 

9:40、「自然首都・只見号」が梁取集会所前停留所に停車。運賃は200円で、只見駅から18.6kmを10分ほどで駆けた。これから登坂を含むロングライドをする身には、ありがたい二次交通だった。

輪行バッグから自転車を取り出して組み立て、準備をした。

 

10:05、梁取集会所前バス停前を出発。「鳥越山」と二等三角点「黒岩」が接する林道鳥越鳥居峠線の下山口(南会津町)に向かった。

 

只見線に乗っていた時の天候が嘘のように、上空は雲一つ無い青空が広がっていた。最高のサイクリング日和、トレッキング日和になったと思った。

途中、和泉田橋の近くから伊南川を眺めた。上流には「明神岳」(766m、会津百名山87座)と南郷スキー場のゲレンデを西斜面に持つ「伝上山」(999.3m)が見えた。

  

 

10:12、只見町から南会津町に入った。

下山地区の集落が見え、国道289号線から左に延びる側道に入った。

側道を1kmほど進み、突き当りを左折すると、まもなく「広域基幹林道鳥越鳥居峠線」を示す案内板が見えた。

 

 

10:18、林道鳥越鳥居峠線の下山口に到着。 

林道の案内には只見町側に「鳥越山」が記され、右隅には合併前の南郷村の文字が入ったままだった。

 

10:30、熊鈴を身に着けるなどして準備を終え、笛を大きく吹いてから下山沢に架かる橋を渡り、林道鳥越鳥居峠線の登坂を開始した。

序盤は傾斜が緩く、自転車に乗り進められた。

一ノ又橋を渡り、しばらく上ると、左側に下山沢が近付いた。

二ノ又橋を渡ると、林道は下山沢の左俣に延びた。


ヘアピンカーブを抜け直線部になると、前方に「大曽根山」(954m)が見えた。

林道が、四等三角点峰「二タ又」(890.9m)の北辺で東に向かうようになると、林道は日陰になった。無葉期で森林の見通しが良いため、クマの存在はあまり気にならなかったが、用心のため笛を大きく吹きながら登り進んだ。

 

標高が800mを越え、しばらく進むと下山沢左俣沿いに駒止ブロックが並んでいた。

この付近から、チェーンソーの音が聞こえ始め、標高850m付近では車両が停まり、切り出されて間もないと思われる木材が積まれていた。

チェーンソーの音で、この付近でクマの存在は気にならないだろうと考え、少し気が楽になった。

 

林道下山森戸沢線との分岐になり、林道鳥越鳥居峠線は右に大きく曲がった。

まもなく、前方に「鳥越山」の稜線が見えた。

*下掲地図出処:国土交通省 国土地理院「地理院地図」URL: ttps://maps.gsi.go.jp/ *赤字は筆者記入

 

林道を進むと、伐採した木を運び出す作業道が度々見られ、伐採作業中との立て看板が置かれていた。

 

 

11:10、林道はほぼ平坦になった。

「鳥越山」の三角点座標を入力しておいたGPSを見ると、それは真北にあるようだった。

ここで自転車をブナに立てかけ、「鳥越山」登山はじめようと思った。

  

11:15、左側(北)の斜面に取付き、「鳥越山」の三等三角点を目指した。斜面は伐採地のようで、太い木はなかったが、倒木や切株があり、足元は悪かった。

足場の悪い急坂が続いた。

 

ピークが近くなると、濃い籔が行く手を阻んだ。

急坂を登りきると、ピークに続くなだらかな斜面になった。

先に進むと、低く疎らなササ藪になった。

  

ササ藪越えると北の方角に尾根筋が見えたので、そこを目指した。

まもなく、右側が大きく開け、伐採木搬出用の作業道がすぐそばまで延びてきていた。この作業道は林道鳥越鳥居峠線につながっているのでは、と思った。

尾根筋に近づくと、ササ藪になった。

背丈ほどのササが密集し、一瞬クマの存在を気にしたが、チェーンソーの音が山間に響き続けていたので、山頂(三角点標石のある場所)の探索に集中できた。

 

前方がこんもりと丸みを帯び、これが「鳥越山」山頂だろうと思った。

そこでGPSに目をやりながら、登山靴を細かく動かしながら、三角点標石の探索を始めた。

   

 

11:42、腰をかがめてササ藪の根元付近をさがすこと約10分、陽光を受けた標石を発見した。先日、金山町で「尻吹峠」と「早坂」の三角点標石が見つけられなかったので、感慨もひとしおだった。

標石は苔むしていたが、側面には“二等”の文字が見え、二等三角点「鳥越山」に間違いなかった。見つけられて良かった、と心底思った。

標石に触れて、登頂を祝った。

「鳥越山」:二等三角点「鳥越山」
基準点コード:TR25539747201
北緯:37°18′40″.4538
東経:139°31′54″.8583
標高(m):980.21
選点:明治38年6月10日 *「点の記」より
*出処:国土地理院地理院地図「基準点成果等閲覧サービス」URL:https://sokuseikagis1.gsi.go.jp/)  


「鳥越山」山頂からの眺望は、背丈ほどのササに覆われた平場ということもあり、全く無かった。

三角点標石の南側。

同じく北側。

 

 

11:50、「鳥越山」山頂を後にした。

林道までの下山は、先ほど見た伐採木搬出用の作業道を使った。

作業道は、山の斜面ではゴッソリと土が削られていた。

途中、振り返って「鳥越山」山頂方面を眺めた。

 

まもなく、眼下に林道鳥越鳥居峠線が見えた。この作業道がどこまで続くのか不明だったので、伐採地の斜面を慎重に下った。

林道に下りて、西の方を見ると、自転車を置いた取付き点は、50m程ですぐ先だった。

ブナに立てかけた自転車は、何事も無かった。どうも、山奥に自転車を停めると『クマが自転車と戯れるのでは』と心配するようになってしまった。

  

 

12:00、次の山、二等三角点「黒岩」に向かって自転車を漕ぎ出した。

150mほど進むと、下山で使った作業道の入口があった。付近には車両の待機スペース(土間)もあったので、この作業道が塞がれなければ、ここが「鳥越山」登山口になると思った。

 

林道鳥越鳥居峠線はヘアピンカーブとなり、平坦から徐々に傾斜が増した。進路が西になった坂の途中で右(北)に顔を向けると、「鳥越山」山頂稜線が見えた。

次のヘアピンカーブの突端からは、山が見えた。

稜線の形状から、「会津朝日岳」(1,624.3m、会津百名山27座)でないかと思った。*参考:拙著「只見町「会津朝日岳」登山 2022年 紅葉」(2022年10月20日)

   

さらに林道を進むと、“伐採作業中”の看板や、スギ木立に入って行く作業道が複数回見られた。広範囲で木の切り出し作業が行われているようだった。

 

林道鳥越鳥居峠線は標高900m台の高地を、適度のアップダウンしながら延びていた。道幅が狭いため『対向車がやってきたら、ちょっと怖いな』とは思ったが、空気は澄み気持ちよくサイクリングができた。

しかも、抜けるような青空が上空に広がり続け、この林道をサイクリングできただけでも今日の収穫だった。 

また、林道には、定間隔と思われる位置に待機スペースが設けられていた。舗装面に凹凸もほとんど無く、整備された林道だということも分かり、対向車への注意が必要だが、良いサイクリングコースになると思った。

*下掲地図出処:国土交通省 国土地理院「地理院地図」URL: ttps://maps.gsi.go.jp/  *「ツール」ー「断面図」で表示させた画面を筆者がハードコビー  

   

13:00、二等三角点「黒岩」方面が見えた。地理院地図の等高線通り、ほぼ平坦な山容だった。

林道鳥越鳥居峠線はアップダウンを繰り返していたが、実感のないまま標高は1,000mを越えていた。今まで1,000mに満たない「会津百名山」や“只見線百山”候補を何座も登ってきたが、それよりも高い場所を自転車でスイスイと進んでいることが不思議だった。 

  

 

13:10、「黒岩」に取付こうと考えていたカーブに到着。

自転車を待機スペースの端に停め、クマ除けの笛を大きく吹いて、さっそく三等三角点「黒岩」を目指して藪に突入した。

東に進み、取付点付近の藪を抜けると、折れた小枝が一面を覆った、のっぺりとした斜面を進んだ。

 

平尾根に乗ると、丈の短いササ藪になり、北東に進路を変え小高いピークを目指した。

ササ藪は徐々に高くなり、密集して行く手を阻んだ。

 

ピークに立つと、浅い鞍部になり、その先には、ササ藪に覆われた登り返しの緩やかな坂が延びていた。

まもなく、ササ藪や背丈を越え、視界が悪くなった。笛を吹いて、熊鈴を意図的に鳴らし、時折「北大クマ研」の“ポイポーイ”を叫び、ササを掻き分けて進んだ。*参考:北海道新聞「「ポイポーイ」クマよけのかけ声が響く北大天塩研究林 地図とコンパスで広大な山林を調査して歩く北大クマ研のヒグマ調査に同行」(2022年9月15日) URL: https://www.hokkaido-np.co.jp/article/730946/?pu

この時、まかさこの背丈を越えたササ藪が、“彼”の縄張りに侵入してしまうルートロスの原因とない、また“彼”との遭遇を回避できたシールドとなるとは、思わなかった...。

  

ササ藪では、時折、GPSを出して進路を確認した。

南会津町と昭和村の境界線辺りを越え、「黒岩」の東縁に近づくと木々の間から昭和村の集落が見えた。

大芦集落のようだった。

地理院地図を見ると「黒岩」の東は等高線の間隔短く、鋭く切れ落ちていたため眺望を期待したが、木が生い茂り塞がれていた。夏場の有葉期は眺望が期待できないことが分かった。

  

行く手は、再び浅い鞍部となり、その先にピークが見えた。ササ藪も丈が短くなり、歩き易くなった。

まもなく、ピークが近付いた。 

GPSを見ると、三角点標石のある座標は近かった。

 

 

13:28、「黒岩」(1,055.5m)のピークと思われる場所に到着。

 

まずは、“山頂”からの眺望を確認した。

“山頂”は平場で西に向かって緩やかに下っているため、切れ落ちている東側が良いと思い、端の方に進んだ。だが、前方には昭和村が広がっているはずだったが、無葉の木々の間からは微かに野尻川の谷底平野の様子が分かる程度だった。

木が比較的疎らな場所でも、枝が入り組み、遠く「博士山」(1,481.9m)から南に延びる平尾根の稜線は分かったものの、「三引山」(1,1147.6m)や「舟鼻山」(1,223.5m) の山座同定は難しかった。

眺望確認後に、三角点標石の探索をした。GPSを頼りに、ピークと思われる場所を靴底に神経を集中しながらグルグルと歩き回り、中盤からは適度な折れ枝を拾い上げて地面を突きながら少しずつ足を動かしながら探索した。

 

...探し続けること約40分、結局、二等三角点「黒岩」の標石は見つからなかった。先日の金山町の「尻吹峠」「早坂」に続いて、3回目の挫折だった。

*下掲地図出処:国土交通省 国土地理院「地理院地図」URL: ttps://maps.gsi.go.jp/ *緑字は筆者記入

 

14:07、気落ちしたまま、下山を開始。ササ藪を進んだ。

クマザサを掻き分け、快調に下って行くが、油断したのか、笛を吹かずにズンズンと進んでしまった。

 

そして、背丈を越えるクマザサ群の中を歩いていると、前方から“ザサッザサッ”とクマザサを掻き分けこちらに向かってくる音を聞いた。『あっ、登山者かキノコ採りの方が登ってきたのかな』と思ったのだが、同時に地を揺らすような“ドンドンドン”という響きに違和感を覚えた瞬間、血の気が引いた。『この時間、この場所に人がやってくるはずはないっ!』と考え直し、『これは、クマだ!』と思い、急停止した。

すると、クマザサで遮られた“相手”も立ち止まった。クマザサが擦れる音は止み、静寂が訪れた。“相手”との距離は、左前方2~3mと推察。おそらく“相手”もこちらを警戒し、身動きしないでいるようだったが、かすかに鼻を鳴らす音も聞こえた。ここで、その“相手”は、クマだと確信し緊張が高まった。

ここで息を整え、クマに関して得ている情報を引き出した。クマは①警戒心が強く、身の危険を感じなければ敢えて襲うことはない、②人間がエサを持っているという認識を持っていなければ襲ってこない、③人間が見えなければ襲ってこない、と頭の中で列挙した。

そして右に向いて、見えぬ“相手”とは正反対の方向にゆっくり動きだし、20mほど離れてから笛を吹き始め、“相手”から100mほど離れてようやく人心地ついた。この間、“相手”が動き出す気配は感じられず、立ち止まって耳を澄ませても、クマザサが掻き分けられる音も聞こえてこなかった。

 

ここで気づくのだが、“相手”とのニアミス地点は、往路から外れたコースだった。“相手”であるクマは人間の匂いや気配がしないため、“ドンドンドン”とこちらに迫ってきたのだろうと思った。私が往路と同じコースを下っていれば、このニアミスは起きなかったと思い、この森に棲むクマに要らぬ警戒をさせてしまって申し訳ないと思った。 

 

今年、県内ではクマも目撃情報が多くなっていて、冬眠を前にしているこの秋は一段と増えているという。*下掲記事:福島民友新聞 2023年11月9日付け紙面

私は、熊鈴を身に付け、笛を吹き、時に“北大ポイポーイ”を叫び山行をしているが、今回のような下山時や、山行後半の疲れがたまった時に、熊鈴だけが鳴っている場合があった。今回、クマとニアミスで済んだ幸運を教訓に、山を出るまでは大きく確かな音を出し続けようと強く脳ミソに刻んだ。

  

クマとのニアミス地点から100m離れた後は、急ぎ林道を目指して下った。そして、まもなく林道の舗装面が見えた。

クマザサと藪を掻き分け、林道に下り立つと、自転車を置いた場所は50mほど先だった。


 

14:19、三角点標石は見つからなかったが、無事(⁉)に「黒岩」登山を終え、自転車にまたがり、急ぎ林道鳥越山鳥居峠線を下った。

二つカーブを曲がって、右の開けた場所から「黒岩」方面を眺め、『クマが居ないわけがない』と独り言ちた。

    

林道を、今度は自転車の前にクマが突然出没しないように、自転車のベルを晴らし笛を吹きながら下ると、前方にゲートが見えた。

南会津町高清水自然公園の「ひめさゆり群生地」だ。ヒメサユリの見頃に合わせ6月中旬~7月上旬の開園になっているという。*参考:南会津町観光物産協会「高清水自然公園

 “本家”「高清水公園」の正門は、「ひめさゆり群生地」から林道を1.3km下った場所にあった。 

この正門を右に見て、北の方向を見ると四等三角点「高清水」がある山(1,002.4m)が見えた。

  

「高清水公園」正門から5分ほど林道を下ると、正面に国道401号線が見えた。

14:40、林道鳥越鳥居峠線の界口に到着。途中「鳥越山」と「“二等三角点”黒岩」に登り、自転車で4時間10分でかけて走破した。

林道鳥越鳥居峠線に隣接する、二等三角点「鳥越山」と二等三角点「黒岩」を巡る山行を終えた。「黒岩」で三角点標石を探せず、クマとのニアミスという“ヒヤリハット”があったが、好天の下で無事に検証登山をすることができた。

「鳥越山」と「黒岩」、双方とも林道から山頂までのルート上と山頂での眺望は得られず、晩春から紅葉期の有葉期には何も見られないという山だった。ただ、林道鳥越鳥居峠線は、奥会津に多い標高1,000m前後の山々と同じ高度で延びているため空気が澄み、今回のようにサイクリングと「鳥越山」と「黒岩」とを合わせたコースとして“只見線百山”に入れるのは面白いと思った。

 

「鳥越山」については、間伐用の作業路が切り拓かれていることから、山頂付近のクマザサを刈払いすれば、林道から容易に往復できる事が分かった。
「黒岩」はクマザサの刈払いは必須で、特に背丈を越えるクマサザは、今回のようにクマとのニアミスや遭遇につながるので、幅広く刈払いする必要があると感じた。また、山頂東側の木々を伐採すれば、昭和村大芦地区が一望でき眺望が得られるようなので、登山道を整備する場合に検討事項に入れて欲しいと思った。

 

今まで只見線沿線の二等三角点峰は、登山途上や山頂から、そこそこの眺望が得られていたため、今回の「鳥越山」と「黒岩」どちらも眺望無しに終わるとは想定外だった。

但し、林道鳥越鳥居峠線でのサイクリングが思いのほか気持ちよく、林道から往復1時間とかからない双方の山は、二等三角点という希少性からも登るに値すると感じ、“只見線百山”に入れるべきだと思った。

 

林道鳥越鳥居峠線界口を後にし、国道401号線を下った。2度目ということで、なつかしさを感じながら下った。

「南郷スキー場」と赤い三角屋根が印象的な「さいたま市保養施設 ホテル南郷」の前を通過。「ホテル南郷」の背後には「明神岳」(766m、会津百名山87座)が聳えていた。

 

14:52、国道401号線が国道289号線に突き当り、右折し只見方面に向かった。

 

14:59、林道鳥越鳥居峠線に向かう側道との分岐を通過。二峰の登山を含め4時間30分かけた距離を、19分で通過した。

 

15:01、只見町に戻った。

まもなく伊南川が近付き、私が国道289号線上の眺めで一番気に入っている、のびやかで奥行きのある風景が見える場所を通過した。

 

15:07、今朝、定期路線バス「自然首都・只見号」で降りた「梁取集会所前バス停」を通過。

バス停から少し進むと、「籠岩」が見えた。

「籠岩」は、日本遺産「御蔵入三十三観音」の第1番札所「成法寺」(国指定文化財)の裏山の斜面に突き出ていて、緑色凝灰岩(グリータフ)と言われている。*参考:日本遺産「会津三十三観音めぐり~巡礼を通して観た往時の会津文化~」第一番札所 梁取・成法寺


この後も、国道289号線をスピードを上げて駆け、時間的にどうかと思ったが、只見町布沢と金山町鮭立を結んでいた峠路「打越」を越えて只見線の会津横田駅に向かう事にした。

→詳細は、次項「只見町ー金山町「打越」越え 2023年 紅葉

  

 

(了)

 

 

・  ・  ・  ・  ・

*参考:

・NHK:新日本風土記「動画で見るニッポンみちしる~JR只見線」 *2008年放送

・産経新聞:「【美しきにっぽん】幾山河 川霧を越えてゆく JR只見線」(2019年7月3日)

・福島県 :只見線管理事務所(会津若松駅構内)

・拙著:「次はいつ乗る?只見線」カテゴリ ー只見線の秋ー / ー只見線沿線の“山”(登山/トレッキング)

 

【只見線への寄付案内】

福島県はJR只見線全線復旧後の「上下分離」経営での維持費や集客・地域振興策の実施費用として寄付を募集中(クレジット可)。

 ①福島県ホームページ:只見線復旧復興基金寄附金・只見線応援団加入申し込みの方法 *現在は只見線ポータルサイト「只見線応援団」URL:https://tadami-line.jp/support/


②福島県:企業版ふるさと納税

URL:https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/16005g/kigyou-furusato-zei.html

[寄付金の使途]

(引用)寄附金は、只見線を活用した体験型ツアーや周遊ルートの整備、只見線関連コンテンツの充実化等に活用させていただきます。 沿線地域における日本一の秘境路線と言われる観光資源を活用し、更なる利用者の拡大と認知度向上を図ります。


以上、宜しくお願い申し上げます。

次はいつ乗る? 只見線

東日本大震災が発生した2011年の「平成23年7月新潟福島豪雨」被害で一部不通となっていたJR只見線は、会津川口~只見間を上下分離(官有民営)し、2022年10月1日(土)、約11年2か月振りに復旧(全線運転再開)しました。 このブログでは、車窓から見える風景写真を中心に掲載し、“観光鉄道「山の只見線」”を目指す只見線の乗車記や「会津百名山」等の山行記、利活用事業に対する私見等を記します。

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