観光列車「リゾートしらかみ」号 橅編成 “初”只見線乗り入れ 2025年 初夏

「只見線こども会議」からの提案を発端とし、JR五能線(秋田県‐青森県)を走る「リゾートしらかみ」号の橅編成がJR只見線に乗り入れるツアーが企画された。運よく席が取れたため、会津若松~只見間を往復乗車した。

  

観光列車「リゾートしらかみ」号は、海沿いを通るJR五能線(東能代~川部、147.2km)の専用観光列車で、新幹線の発着駅である秋田駅と青森駅(3号と6号は弘前駅)の間で快速運転されている。

「リゾートしらかみ」号は1997年に誕生し、2006年3月以降、五能線沿線に広がる世界遺産「白神山地」に関連する名を持った「橅」・「青池」・「くまげら」の3編成が運行されている。このうち「橅」・「青池」の2編成は車両がディーゼルハイブリット型「HB-E300」に更新され、「くまげら」編成は導入当時の「キハ40」改造車が走っている。*下図出処:「リゾートしらかみ」乗車記念スタンプ用紙

今回只見線で運行されることになった「リゾートしらかみ」号は、2016年7月にデビューした橅編成で、「白神山地」のブナ林をイメージした外観と内装を持っている。*下図出処:東日本旅客鉄道㈱「新型リゾートしらかみ「橅」編成の概要について」(PDF)(2016年5月17日)  *p1,2,4を抜粋/p2は一部ボカシ加工

私は2020年8月に、五能線を走る乗車する「リゾートしらかみ」号 橅編成に乗車した。*参考:拙著「【参考】観光列車「リゾートしらかみ」乗車記 2020年 夏」(2020年8月10日)

この「リゾートしらかみ」号は、今では人気の観光列車で、2011年12月には累計乗車人数が100万人に達した。今年のゴールデンウィークも好評で、12日間で5千人を超える乗客に利用されたという。*下図出処:東日本旅客鉄道㈱秋田支社「ゴールデンウィーク期間のご利用状況」(PDF)(2025年5月7日) *一部ボカシ加工

 

五能線は、沿線の人口減少やマイカー普及など只見線同様の問題を抱えていた赤字路線で、廃線も検討されていたという。しかし、「リゾートしらかみ」号の運行により、五能線は国内屈指の観光鉄道になったと言われている。*下引用出処:ITmedia ビジネスオンライン:地方創生のヒントがここにある「廃止寸前から人気路線に復活した「五能線」 再生のカギは“全員野球”の組織」 (2016年9月6日)

(引用)
 実は、もともと五能線は赤字路線であり、観光列車が運行する前は廃止も検討されていた。
 五能線に観光列車が走り始めたのは1990年。人口流出によって利用者が減少し続け、窮地に追いやられていた五能線の復活を賭け、当時のJR秋田支社は列車の窓から見える絶景を生かした観光路線に転換した。
 当時は、広いエリアを走る路線を観光の目玉として売り出す前例はなく、県を跨ぎ13もの市町村が連携して取り組む販売促進も前代未聞。当然その改革は容易ではなく、すぐに成果につながることはなかったが、地道に努力を積み重ねてきた結果、今では年間10万人以上の観光客が「リゾートしらかみ」に乗車するほどの人気を博し「奇跡のローカル線」と言われるまでになった。*出処:ITmedia ビジネスオンライン「廃止寸前から人気路線に復活した「五能線」 再生のカギは“全員野球”の組織」 (2016年9月6日)

この五能線の成功体験を参考に、只見線の一部区間(会津川口~只見)を「上下分離方式」で保有する福島県は、「只見線利活用計画」の“10の重点プロジェクト”の最上位に『目指せ海の五能線 山の只見線』を掲げ、“オリジナル観光列車の定期運行を目指”している。*参考:拙著「“観光鉄道「山の只見線」” を目指して」(2018年8月31日)

 

そして「只見線利活用計画」に沿った活動の一環として、2023年9月に「只見線こども会議」が開催され、JR東日本や関係自治体への提案の一つとして「リゾートしらかみ」号の只見線での運行が挙げられた。*下記事出処:福島民報 2023年9月17日付け紙面 *一部、筆者にてモザイク加工

現在も「只見線こども会議」の活動は続いていて、昨年には『私の乗りたい只見線オリジナル観光列車』のアイディアをJR東日本の関係者に報告している。*記事出処:福島民報 2024年9月11日付け紙面

この「只見線こども会議」の提案を受けた福島県やJR東日本は、来年に控えた「ふくしまディスティネーションキャンペーン(DC)」のプレキャンペーン(2024年4月1日~6月30日)のイベントとして、「リゾートしらかみ」号の橅編成を只見線に乗り入れるツアーを企画した。*下図出処:福島県・東日本旅客鉄道㈱東北本部・㈱JR東日本びゅうツーリズム&セールス「「リゾートしらかみ橅編成」が只見線に初乗り入れします! 」(PDF)(2025年4月24日)

このツアーは4月24日から申込開始となったが、まもなく“キャンセル待ち”となるほどの高い人気だった。しかも、「リゾートしらかみ」号が秋田に戻る際に設けられた“リゾートしらかみ 橅編成で行く!東北本線・北上線・奥羽本線 郡山~秋田”ツアーも、同様にまもなく“キャンセル待ち”となった。*下図出処:㈱JR東日本びゅうツーリズム&セールス「日本の旅 鉄道の旅

私は、先々月の4月24日に「只見駅フリーコース」に予約したところ承認され、5月1日に催行確定のメールを受け、あとは好天を願い当日を待っていた。

 

そして迎えた今日、梅雨入りが近くなり天気予報が気になったが、会津と南会津地方の降水確率は0~20%で雨の心配はほとんどなく、終日青空が広がるというものだった。好天の下、会津平野の田園と奥会津の新緑の中を駆ける“只見線 リゾートしらかみ”の旅に臨んだ。

*参考:

・福島県:只見線ポータルサイト

・福島県・東日本旅客鉄道株式会社 仙台支社:「只見線全線運転再開について」(PDF)(2022年5月18日)

・NHK:新日本風土記「動画で見るニッポンみちしる~JR只見線

・産経新聞:「【美しきにっぽん】幾山河 川霧を越えてゆく JR只見線」(2019年7月3日)

・拙著:「次はいつ乗る?只見線」カテゴリ -只見線の夏- / -観光列車-

 

 


 

 

今朝、郡山駅に移動。駅舎上空には薄い雲が広がってはいたが、天気予報通りの天候になる空模様だった。

切符を購入し改札を抜け、1番線に停車中の磐越西線の列車に乗り込んだ。

6:52、会津若松行きの列車が郡山を出発。

  

沼上トンネルを抜け、会津に入っても好天は続き、猪苗代を過ぎると「磐梯山」(1,816.0m、会津百名山18座) は雄大な山容を水田に映していた。

この「磐梯山」は、来週の日曜日に山開きを迎える。例年は5月第四週に開催されていたが、今年は山頂付近に例年より多くの残雪が確認されており、登山道の安全確保や緊急時の対応が困難な状況』(磐梯町観光協会)とのことで延期になったという。山開き当日は、今日と同じように好天に恵まれることを願った。*参考:拙著「猪苗代町「磐梯山」山開き登山 2023年 春」(2023年5月28日)

  

8:08、列車は途中駅で高校生を中心とする客を乗せながら、定刻に会津若松に到着。「鶴ヶ城」を模した駅舎の白壁は、陽光を浴びてその白壁を輝かせていた。

 

改札の脇には、袴姿の「ぽぽべぇ」のパネルが立ち、只見線の列車案内を見ると、「リゾートしらかみ」号が“団体専用列車”として表示されていた。*「ぽぽべぇ」:JR東日本の会津若松エリアプロジェクト オリジナルキャラクター

そして、改札前のスペースでは、既に「リゾートしらかみ」号 橅編成(以下、「リゾートしらかみ -橅-」)乗車ツアーの受付が始まっていて、多くの方が並んでいた。

私も列の後ろに並び、受付を行った。順番が来て名前を告げると、首掛け付きの赤いケースを渡され、列車の出発時刻を告げられた。ケースの表には、名刺大の往復分二枚の“お座席のご案内”が入れられていた。

今回のツアーでは切符の発行は無いようで、旅程表(出発のご案内)もツアー開催確定案内メールに添付されたリンク先のPDFで済ませていた。

 

少し早かったがホームに行き、入線する「リゾートしらかみ -橅-」を見ることにした。只見線の団体列車で使われる2-3番線ホームには、時間が経つにつれて次々と客や、法被を着たツアー主催者側のスタッフが集まってきた。

 

ホームの先に行き、車庫の方を眺めると、「リゾートしらかみ -橅-」が、只見線を走るキハE120とキハ110東北色の間に挟まれ、待機していた。

 

8:58、「リゾートしらかみ -橅-」が、カメラやスマホを向ける客の視線を受けながら入線。

列車が停車すると、さっそくドアが開き、私は座席のある1号車に入った。

一旦、席に座ると、前席背部に貼られた“五能線の旅”というステッカーが目につき、この列車が「五能線」の列車であることを改めて意識し、『よくぞ会津まで来てくれた』と思った。

 

座席に荷物を置いて、「リゾートしらかみ -橅-」の撮影に向かった。

まずは、只見線乗車でいつも使う跨線橋から「リゾートしらかみ -橅-」と「磐梯山」に続く山の稜線を眺めた。また、ちょうど、只見線のE120の単行(会津川口発、会津若松行き)が回送準備中で、「リゾートしらかみ -橅-」のサイズ(長さ)の違いを実感した。

次は只見線の4-5番線ホームに下り、E120単行が車庫に移動した後、側面から「リゾートしらかみ -橅-」全体を眺めた。ブナ木立をイメージした、グラデーションのデザインは違和感なく融け込み、これから走行する只見線でも間違いなく映えるだろうと思った。

ただ、この車体には一部塗装が剥がれた箇所があった。「リゾートしらかみ」号の走行区間の大半は海沿いだが、自然の中を駆けるため草木による“擦過傷”は当然のだと思った。

 

 2-3番線ホームに戻ると、法被を纏った、動く「ぽぽべぇ」が居た。

「ぽぽべぇ」は愛想を振りまき、次々と客とカメラに収まっていた。この「ぽぽべぇ」は、いずれ福島県を代表する赤べこのゆるキャラとなり、福島県の公式マスコットである「キビたん」の存在を脅かすのではないか、と個人的には思っている。

 

列車の出発時刻が近づき、1号車に乗り込み、自席についた。1号車は数か所空席が見られたが、男性のソロ旅客を中心に賑わっていた。

 

9:15、「リゾートしらかみ -橅-」はディーゼルエンジンを静かに蒸かし、ゆっくりと動き出した。ホームではスタッフが2枚の横断幕を広げ、多くの方々が手を振り見送ってくれた。白い駅長服を纏った会津若松駅長は小旗を振りながら手を振り、「ぽぽべぇ」は短い手をパタパタと動かしてくれていた。


「リゾートしらかみ -橅-」は市街地にある七日町を通過し、西若松で時間調整の停車をした後に大川(阿賀川)を渡った。大川の流れは清らかで、上流には「大戸岳」(1,415.7m、同36座)の山塊が見えた。

 

会津本郷通過直後に会津美里町に入った列車は、広がり始めた田園の間を進んだ。左車窓前方、南西には会津総鎮守「伊佐須美神社」の山岳遷座地である「明神ヶ岳」(1,073.9m、同61座)と、その左後方に「博士山」(1,481.7m、同33座)が見えた。

 

会津高田を通過し、“高田 大カーブ”で進路を西から北に変えた列車は、会津平野の豊かさを実感できる田園の間を進んだ。右車窓からは「磐梯山」が見え続けた。

そして、根岸を通過するとまもなく、左車窓の前方には、まだ多くの雪を残した「飯豊山」(2,105.0m、同3座)を主峰とする飯豊連峰が、うっすらと見えた。*参考:公益財団法人 福島県観光物産交流協会「ふくしま30座」飯豊山  https://tif.ne.jp/yamafuku/mt30/18.html

 

車内では「ふくしまDC」の袋に入った会津若松市を中心とする観光案内が配られた。赤べこのストラップも入っていたが、驚いたのは東武特急「リバティ」号の写真が使われた野岩鉄道のパンフレット。福島県が筆頭株主になっている第三セクターの鉄道とはいえ、JRの列車内で見るとは思わなかった。

ただ、福島県は只見線の一部区間(会津川口~只見、27.6km)を上下分離方式で所有し、只見線で導入を検討している観光列車を、野岩鉄道と繋がり東京・浅草まで“一本の鉄路”となっている会津鉄道にも乗り入れる計画を立てている。福島県とすれば、JRも会津鉄道も野岩鉄道も、多くの観光客を会津に招き入れる導線ととらえ、広域観光振興策を考えているのだろうと思った。*参考:拙著「東武特急「リバティ 会津」号 ⇒ 只見線(只見→会津若松) 乗車 2024年 春」(2024年4月8日)


自席を離れ2号車に行きBOX席車両の通路を歩くと、連続する大きな窓に田園が見え良い借景を創っていた。

BOX席はもちろん満席で、客はくつろぎ、車窓に広がる景色を楽しんでいるようだった。

この通路には「リゾートしらかみ」号の停車駅が、海の青と白神山地の緑のグラデーションの間に記されていて、今会津を走行していることを不思議に感じた。

 

「リゾートしらかみ -橅-」は田園を快調に駆け、新鶴を通過し若宮手前で会津坂下町に入った。

 

9:45、列車は、会津坂下で時間調整の停車をした。車内では、赤べこの「うまべえ君」が描かれた町の観光案内が配られた。中には町の名物「冷やしラーメン」のパンフレットが入っていた。*参考:拙著「会津坂下町「冷やしラーメン」 2020年 夏」(2020年7月12日)

そして、町に本社と工場を構える会津中央乳業㈱の名物となっている“飲むヨーグルト”が乗客全員に配られた。

この“飲むヨーグルト”である「ソフトクリーミィ ヨーグルト」は、その飲みにくさに大きな特徴があり、来月の父(ちち)の日(6月15日)に同社で開催される「第14回べこ乳マルシェ」では、“第3回早飲み世界大会”が行われるという。

 

「ソフトクリーミィ ヨーグルト」を手に取ってまもなく、ホームに「キハちゃん」が現れた。

只見線の景観に溶け込み、鉄道ファンを中心に愛され2020年3月に引退した「キハ40」東北色をイメージした“只見線公式キャラクター”である「キハちゃん」は、頭でっかちでノソノソ歩き短すぎる手を動かす姿が愛らしかった。*参考:会津坂下町「只見線応援キャラクター誕生!!」(2015年3月13日) https://www.town.aizubange.fukushima.jp/soshiki/2/3337.html / YouTube「キハちゃんねる」URL: https://www.youtube.com/channel/UChBGESkzNzqsYXqjMQmsgbg

  

9:57、時間調整の停車を終えた「リゾートしらかみ -橅-」が会津坂下を出発。ホームで多くの子ども達や町民の方々が手を振り見送ってくれた。

   

ここから、呑み鉄。今夜は会津若松市内の居酒屋で会津の地酒を堪能する予定なので、今年の全国新種鑑評会で金賞を受けた中通りの酒を吞むことにした。

福島県は全国新酒鑑評会で、金賞受賞数の9連覇(2013~2022年(2012~2021酒造年度))を達成していたが、2023年は受賞数5位で10連覇を逃し、2024年は同2位となっていた。今年は16銘柄が金賞を受賞し、兵庫県と並び全国一となり、3年ぶりの奪還となった。*参考:NHK Web「“最高の酒”集う 全国新酒鑑評会 福島県の史上初10連覇なるか 」(2023年5月19日) URL: https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230519/k10014067801000.html

 

まずは、奥の松酒造㈱が福島県酒類卸㈱と共同開発した「本醸造辛口 べこカップ」を呑んだ。赤べこイラスト入りのワンカップを会津ではなく中通りの酒蔵が出していることに驚き、即決で購入した。

少しクセのある、日本酒らしい「べこカップ」を呑み始めると、「リゾートしらかみ -橅-」はディーゼルエンジンを響かせ出力を上げて、会津平野と奥会津の境界となる七折峠に向かって登坂を始めた。

  

“七折越え”を終えた「リゾートしらかみ -橅-」は会津坂本を通過し、奥会津の入口となる柳津町に入ると“撮る人”の姿が目立ち始めた。第一八反野踏切付近には10名を超える方々が居て、シャッターを切った後に手を振る姿も見られた。

この後、“赤べこ発祥の地”である「福満虚空蔵尊 圓蔵寺」の最寄りである会津柳津には停車しなかった。しかし、ホームでは町民が横断幕を広げるなどして、「リゾートしらかみ -橅-」を見送ってくれた。

 

郷戸を経て滝谷通過直後に、列車は滝谷川橋梁を渡り、三島町に入った。*以下、各橋梁のリンク先は土木学会附属土木図書館デジタルアーカイブス「歴史的鋼橋検索」

  

そして、会津桧原を過ぎて桧の原トンネルを抜けた「リゾートしらかみ -橅-」は「第一只見川橋梁」を渡った。エメラルドグリーンの水面には、“水鏡”が現れ、周囲の木々や青空を映し込んでいた。*只見川は東北電力㈱柳津発電所・ダムのダム湖

 「リゾートしらかみ -橅-」は観光徐行をしてくれたため、ゆっくりと橋上からの景色を楽しむことができた。車内の客の大半は、窓際や先頭のフリースペースに移動し、カメラやスマホを車窓にむけてシャッターを切っていた。

 

左車窓から上流側、右岸上部の送電鉄塔下の「第一只見川橋梁ビューポイント」に向かってカメラをズームにすると、Cポイントと最上部Dポイント双方で、50名は優に超える“撮る人”が確認できた。

今回が最初で最後になる可能性がある 「リゾートしらかみ -橅-」が、国内指折りの人気を得るようになった「第一只見川橋梁」を渡る姿を、うまく撮影できただろうかと思った。

 

続けて、会津西方を通過した列車は「第二只見川橋梁」を渡った。ここでも“水鏡”は出ていて、上流側には「三坂山」(831.9m、同82座)が良く見えた。*只見川は柳津ダム湖

 

「リゾートしらかみ -橅-」は、「みやしたアーチ3橋(兄)弟」の“長男”大谷川橋梁を渡った。左車窓から見上げると、巨大な下部アーチ鋼材の、国道252号線の“三男”新宮下橋が見られた。*参考:三島町観光協会(観光交流館からんころん)「『みやしたアーチ3橋(兄)弟』のビューポイント」(2013年6月16日) URL: https://blog.goo.ne.jp/mishimakankou/e/e93620f5690ee4e3adf6d1124b2f46e5

 

10:40、「リゾートしらかみ -橅-」は、会津宮下を通過。ここでも、ホームで町民の見送りを受けた。

ここで配られた三島町の観光案内パンフレットには、「星空ヨガ」のものがあった。「星空ヨガ」は2022年から「美坂高原」で行われいるイベント。この「美坂高原」は町が「星空保護区」の登録を目指して活動を進めている地で、街の灯りが届かず綺麗な星空が見られ、「星空ヨガ」はこの星空の下で行われている。*参考:(一社) 星空保護推進機構 URL: https://hoshizorahogoku.org/dpa/ / 三島町「美坂高原の星空を守ろう」(PDF) 

 

会津宮下を出ると、車内で配られた“特製弁当”を食べた。

会津若松市内の割烹・会津料理「田季野」が、「リゾートしらかみ -橅-」の運行に合わせて作った「青森・秋田×会津 東北交流弁当」だ。

合わせる日本酒は「廣戸川 純米吟醸」。「廣戸川」を造る松崎酒造㈱は、中通りの米どころ・天栄村にあり、2012年に初めて全国新酒鑑評会に出品以降、今年まで10年連続を含め12回金賞を受賞している確かな醸造技術を持つ蔵だ。

「青森・秋田×会津 東北交流弁当」の、一品一品思いの詰まった料理を口に運び、香り高く良い具合にサッパリした「廣戸川」で流し込んだ。

この料理について、弁当が配られてまもなく「田季野」の女将によって車内放送で説明がなされた。弁当の包装紙の裏にも、びっしりと料理の説明書きが記されていた。各食材や調理について識り食べる料理は格別で、「会津地鶏と秋田みそ漬からあげ」と「昔豆腐の揚げだし」は特に印象的で旨かった。

青森・秋田 × 会津 東北交流弁当のご紹介
 会津の食文化は、江戸時代に日本海で運行されていた北前船と新潟からの河川舟運が大きく影響しています。このような特徴は、青森や秋田でも見られ、その土地の調理法によって郷土の味が作られ、受け継がれてきました。
 本品は、リゾートしらかみの只見線運行に際して、会津・青森・秋田の食を盛り合わせたオリジナル弁当です。会津の旅路において、北前船でつながりを持つ各地の味をご堪能ください。
「桜肉の会津みそ焼き」/「自家製豚ロースハム 津軽みそとチーズ巻き」/「会津地鶏の秋田みど漬からあげ」/「にしんと山菜の煮物」/「昔豆腐の揚げだし」/「白小豆の餡だんご」/「てんこ小豆の赤飯」/「会津地野菜の三五八漬け」

 

ご飯は、輪箱(わっぱ)に入った「てんこ小豆の赤飯」。“カリカリ梅”とワラビと糸こんにゃくの煮物が載っていて、モチモチで旨かった。

  

 

「リゾートしらかみ -橅-」は、東北電力㈱宮下発電所の背後と宮下ダムの脇を駆けた後、「第三只見川橋梁」を渡った。ここでも観光徐行がなされ、ゆっくりと両側の景色を見る事ができた。*只見川は宮下ダム湖

 

「リゾートしらかみ -橅-」が早戸に近づくと、車内放送があり、只見川の両岸を結んでいた渡し船が、現在では観光和舟となっている案内があった。

駅に近接する観光和舟の発着場の前で浮かぶ和舟には船頭が居て、「リゾートしらかみ -橅-」に向かって大きく手を振っていた。

この観光和舟は“霧幻峡の渡し”としてPRされているが、川面が一面川霧に包まれる“霧幻峡”出現の確立は低く、それよりも両岸の地名に由来する“早三の渡し”として、川面を包み込み映り込む四季折々の景色を前面に出して観光案内した方が良いのでは、とこの光景を見て改めて思った。

 

金山町に入った「リゾートしらかみ -橅-」は、左に大きく曲がりながら“不渡橋”細越拱橋を渡った。

眼下見える国道252号線には、普段より多い車が走り、この先国道が見える度に変わらぬ車列が見られた。どうやら「リゾートしらかみ -橅-」を追っかけている鉄道ファンのようだった。

  

会津水沼を通過してまもなく、「リゾートしらかみ -橅-」は「第四只見川橋梁」を渡った。*只見川は宮下ダム湖

渡河直後に橋のたもとにある撮影ポイントを見ると、10名ほどの“撮る人”が居た。

 

会津中川を通過して大志集落の背後を駆けた「リゾートしらかみ -橅-」は、減速しながら右に大きく曲がった。右車窓から振り返ると只見川に突き出た大志集落が見えた。只見川の“水鏡”はまずまずの冴え具合で、綺麗に上下対称の風景を映し込んでいた。*参考:金山町観光上方サイト「奥会津ビューポイントかねやまふれあい広場

  

11:07、短い停車を経た「リゾートしらかみ -橅-」が会津川口を出発。ここでも大勢の方々の見送りを受けたが、幟を持ち手を振る町長の姿もあった。

停車中、車内では町の特産品「天然炭酸水」と町のキャラクター「かぼまる」が描かれた袋に入った観光案内パンフレットが配られた。

  

会津川口出発後「リゾートしらかみ -橅-」は「平成23年7月新潟・福島豪雨」被害で11年以上の運休の末に福島県が所有(上下分離)することになった区間(会津川口~只見、27.5km)を走行した。沿線は人口の少ない地帯が故に自然豊かで、先頭のフリースペースに行き、少しの間、大きな車窓が両側にある開放的な場所で風景を眺めた。

 

列車は「第五只見川橋梁」を渡り...、

本名を通過すると、「第六只見川橋梁」を渡った。

上流側の直下にある東北電力㈱本名発電所・ダムは、洪水吐ゲートが閉じられ放流していなかった。

 

「リゾートしらかみ -橅-」が本名、橋立の少し長めのトンネルを抜け、会津越川会津横田を経てまもなく撮影スポットの前を通過した。町道には10台以上の車があり、その端には多くの“撮る人”がカメラを構えていた。

そして、列車は「第七只見川橋梁」を渡った。先ほどの撮影ポイントは、この橋を渡る列車の撮影ポイントだが、上流側に架かる四季彩橋上にも数名の“撮る人”が居た。

 

天然炭酸水の取水場最寄りの会津大塩を通過した列車は、滝トンネルを抜け、只見町に入った。滝ダム湖となり幅広となった只見川を、「鷲ケ倉山」(918.2m、同71座)や家々が点在する里山が取り囲んでいた。*滝ダム湖は電源開発㈱滝発電所の調整池

  

会津塩沢を通過した「リゾートしらかみ -橅-」は、「第八只見川橋梁」を渡った。*只見川は滝ダム湖

渡河後、宮原地区の住宅地に入ると、列車に向かって手を振るご家族の姿があった。お祖母さんとお孫さんが持つ横断幕には“がんばれ”の文字が書かれていた。*参考:只見町「広報ただみ」2015年4月号 No.539 p8 「手をふろう条例」制定 

宮原地区を抜けた列車は、蒲生原を見下ろせる開けた場所を通過した。遠くには雪を残した只見四名山「浅草岳」(1,585.4m、同29座)が見えた。

 

会津蒲生を通過し蒲生川を渡ると、町道に多くの“撮る人”が居て、手を振り見送ってくれた。

 

「リゾートしらかみ -橅-」が八木沢地区の背後を駆けると、木々の間からダム湖から清流となった只見川越しに、只見四名山「会津朝日岳」(1,624.3m、同27座)が見えた*参考:(一社)東北観光推進機構「只見四名山

 そして、列車は只見線最長の「叶津川橋梁」(372m)を渡り始めた。

橋の付近には多くの“撮る人”が居たが、“ティラノサウルス”も姿を見せ、「リゾートしらかみ -橅-」に手を振ってくれていた。

“撮る人”以外にも、河川敷などに地元の方々も居て、列車を見上げながら手を振っていた。

 

渡河後、左車窓からは、“会津のマッターホルン”の名に相応しい山容の、只見四名山「蒲生岳」(828m、同83座)が見えた。

 

 

11:48、列車は減速しやがて停車。ホームが短いため、ドアが開く2号車に移動した。

「リゾートしらかみ -橅-」が往路走行を終え、無事に只見に到着。上空には薄い雲が見られたものの、夏を思わせる陽射しが降り注いでいた。

駅舎に並ぶ廃ホームの上には、町民を中心に多くの方々な並び、手を振り迎えてくれた。

「只見線こども会議」の横断幕を持つメンバーの両脇には、「リゾートしらかみ3兄弟」の次男で橅編成をイメージした「ぶなグリーン」と、只見町のメインキャラクターである“ブナの精”「ブナりん」も立っていた。

*下図出処:(左)東日本旅客鉄道㈱秋田支社「「リゾートしらかみ3兄弟」メジャーデビュー!」(PDF)(2014年12月19日) / 只見町観光商工課「只見町キャラクター使用マニュアル」(PDF) 

 

復路では座席の変更があるため、客は荷物を持って全員降りることになった。駅舎に向かうと、出迎えのスタッフが立つ脇には、今回の「リゾートしらかみ -橅-」運行に合わせて用意したというブナの枝が置かれていた。

そして、駅舎内では只見町の観光案内パンフレットと、「只見線にみんなで手を振ろう条例」の制定10周年を記念した団扇をいただいた。

 

駅頭に出ると、通常は駐車スペースになっている場所にテントが張られ、物販などが行われていた。そして「只見線広場」の脇では町の名物・ジンギスカンにちなみ飼われている3匹の羊のふれあいコーナーがあった。

 

駅頭から北に少し歩き、只見四名山「要害山」(705m、同91座)を背景に「リゾートしらかみ -橅-」を眺めた。キハ40東北色もそうだが、緑と白の車体は緑に包まれた山々に映えると思った。

  

私は駅を離れ南に向って歩き、20分ほどで2kmほど離れた場所にある電源開発㈱只見発電所・ダムに到着。

ロックフィルの堰堤を進み、中央部付近から只見(ダム)湖越しに、電源開発㈱田子倉発電所・ダムの巨大な堰堤と、その背後に、おやすみになられている“寝観音様”を眺めた。*“寝観音様”=[横顔]猿倉山(1,455m)から[組み合わせている手]横山(1,416.7m)の稜線

ダム湖越しにダムが見られる国内でも珍しいこの光景は、『只見町を訪れたら見ておきたい』と思い、今回の短い停車時間でも来ることにしていた。やはり、よい眺めだった。

堰堤から西に目を向けると、電源開発㈱の展示施設「只見展示館」越しに「浅草岳」の山頂が見えた。 

堰堤から数枚の写真を撮った後、急ぎ只見駅方面に戻った。  

 

国道252号線沿いの松屋で買い物をして、只見駅舎の北にある上ノ原踏切に向かい、“寝観音”様を背後にする「リゾートしらかみ -橅-」を眺めた。

そして、踏切を渡り北側の道を通り、列車を側面から眺め「リゾートしらかみ -橅-」乗車旅の往路を終えた。

 

「リゾートしらかみ -橅-」只見線の旅は快適だった。ツアー料金はかなりの高額だったが、列車の外観・内装から感じられた旅情の充実感と「田季野」の特製弁当の旨さなどから、大満足の旅となった。

また好天の下、広々としたリクライニング機能を持った席に座り大きな車窓から眺めた、会津平野の田園と奥会津の只見川の景色は、いつもにも増して素晴らしく感じ、只見線への専用観光列車の早期導入を願わずにはいられなかった。


そして、“呑み鉄”でもある私が、今回の旅でも必要性を痛感したのが、男性用のトイレ。酒を呑むとどうしてもトイレが近くなるが、揺れる電車内で洋式トイレを使うのは難儀するため、男性用トイレは助かった。

列車旅と酒の親和性は高く、名実ともに“日本酒王国”へ近づいている福島県にとって、一部区間を保有する只見線内で日本酒を呑んで欲しいの願うのは妥当性がある。只見線への導入を見込む観光列車には、是非男性用トイレを設置して欲しいと、改めて思った。


ちょっと残念だったのは「ORAHOカウンター」が、ほぼ利用できなかった事。売店は営業していたが、そのカウンターには荷物が置かれ、椅子に座り景色を眺めることができなかった。

臨時運行のツアー列車で、客に配るパンフレットや記念品の置き場が必要だったということもあろうが、「リゾートしらかみ -橅-」の良さを味わってもらうには、カウンターを自由に使える状態にして欲しかったと思った。

 

今回「リゾートしらかみ -橅-」の只見線乗り入れを発案し、限られた資源の中で尽力した「只見線こども会議」のメンバーと、福島県ならびにJR東日本の関係者には感謝感謝だ。

  

【私見】只見線への専用観光列車の導入について

今回、私はリクライニングシート、個室、売店、眺望カウンターを持つ、4両編成という長大車両(リゾートしらかみ -橅-)、只見線に乗り入れた場合、どのような様子になるのかを体験し、現在導入への検討が進む只見線専用観光列車について自分なりに考えたいと思い旅に臨んだ。

 

結果、只見線に観光列車を導入する場合は、次のような編成が良いと思った。

3両編成

1号車:リクライニングシート

2号車:売店+フリースペース

3号車:個室

 

座席については、今回の「リゾートしらかみ -橅-」や磐越西線に中心に運行している観光列車「SATONO」と同じで良いと思う。

フリースペースについては、新潟~酒田間を走行する観光列車「海里」にような、売店とフリース(イベント)ペースのみの車両の連結が必要だと思った。*下図(右)出処:東日本旅客鉄道㈱新潟支社「新潟・庄内の食と景観を楽しむ列車「海里」デビュー」(2018年10月16日) URL: https://www.jreast.co.jp/niigata/press/20181016kairi.pdf


「リゾートしらかみ -橅-」や「SATONO」のフリースペースは、列車の両端(運転席の後方)に2m×2m程度のものがあるだけだった。このフリースペースは一時的な利用を想定していて、また、先頭走行時には後方に座る客の視線を受けることになり落ち着かない。

只見線専用観光列車が、会津若松~小出間を走行するならば乗車時間は4時間を超え、会津若松~只見間でも3時間ほどになる。この長い乗車時間で客が快適に過ごすためには、専用車窓にフリースペースを設け、窓に正対するようヒップバーを取り付けるなどして、乗客は座席とフリースペース双方で、車窓からの景色を楽しめるようにすべきだと思う。


只見線専用観光列車は、福島県が中心となって車両の改造による導入を進めているという。はじめの一歩として、改造車両による観光列車の運行はありだが、私はそう遠くない未来に新造の只見線専用観光列車を走らせて欲しいと願う。


今回乗車した「リゾートしらかみ -橅-」の製造費は14億円とも言われていて、現状の只見線専用観光列車導入のスキームでは、車両の新造は難しい。*参考:旅行総合研究所タビリス「「リゾートしらかみ」にハイブリッド車両を追加投入。14億円もの素敵な新造車両が五能線に」(2015年5月16日) URL: https://tabiris.com/archives/shirakami/

しかし、只見線は、「リゾートしらかみ 」を3編成(橅、青池、くまげら)を運行させている五能線に遜色ない車窓からの景色があり、沿線の文化や食の魅力を持つ。この只見線に、観光列車新造の投資を行うことは決して無謀な事ではない。


只見線は、会津若松~会津川口間をJR東日本・東北本部、只見~小出間を同新潟支社がそれぞれ管轄し、その間の会津川口~只見を福島県が保有するという複雑な管理形態になっているため、専用観光列車を新造する場合のハードルは高い。

しかし、東京圏から東北新幹線(郡山駅)と上越新幹線(浦佐駅)を利用することで周遊旅が可能になる只見線は観光資源としての価値は高く、多額の投資に見合った実質的・社会的リターンが得られると私は考えている。

 

「只見線利活用計画」を進め只見線専用観光列車の導入を目指す福島県は、JR東日本の東北本部と新潟支社、新潟県や沿線自治体と“観光鉄道「山の只見線」”の価値を再確認し、専用観光列車の新造の巨費を調達する道筋をつけて欲しい、と今回只見線に乗り入れた「リゾートしらかみ -橅-」の乗車して切実に思った。

 

 

(了)

 

 

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*参考:

・福島県:只見線ポータルサイト

・福島県・東日本旅客鉄道株式会社 仙台支社:「只見線全線運転再開について」(PDF)(2022年5月18日)

・NHK:新日本風土記「動画で見るニッポンみちしる~JR只見線

・産経新聞:「【美しきにっぽん】幾山河 川霧を越えてゆく JR只見線」(2019年7月3日)

  

【只見線への寄付案内】

福島県はJR只見線全線復旧後の「上下分離」経営での維持費や集客・地域振興策の実施費用として寄付を募集中(クレジット可)。

 ①福島県ホームページ:只見線復旧復興基金寄附金

・只見線応援団加入申し込みの方法

*現在は只見線ポータルサイト「只見線応援団」URL:https://tadami-line.jp/support/



②福島県:企業版ふるさと納税

URL:https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/16005g/kigyou-furusato-zei.html

[寄付金の使途]

(引用)寄附金は、只見線を活用した体験型ツアーや周遊ルートの整備、只見線関連コンテンツの充実化等に活用させていただきます。 沿線地域における日本一の秘境路線と言われる観光資源を活用し、更なる利用者の拡大と認知度向上を図ります。



以上、宜しくお願い申し上げます。

次はいつ乗る? 只見線

東日本大震災が発生した2011年の「平成23年7月新潟福島豪雨」被害で一部不通となっていたJR只見線は、会津川口~只見間を上下分離(官有民営)し、2022年10月1日(土)、約11年2か月振りに復旧(全線運転再開)しました。 このブログでは、車窓から見える風景写真を中心に掲載し、“観光鉄道「山の只見線」”を目指す只見線の乗車記や「会津百名山」等の山行記、利活用事業に対する私見等を記します。

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