「焼肉たけはら」の“幻”と呼ばれる名物「どてちん丼」を食べてみたいと、「鷲ヶ倉山」登山の後、JR只見線の列車の乗って会津坂下町を訪れた。
“会津馬肉の本場”とも言われる会津坂下町は、かつて越後街道の宿場町として栄え、荷役に使う馬に加えて農耕馬も多く、畜場とセリ場、屠場が塔寺付近にあり、馬食文化が生まれた。 馬肉は「桜肉」とも呼ばれ、“西の熊本、東の会津”と言われている。
馬肉に使う馬は外来種で、農耕馬など頑丈な「重種」と、競走や乗馬に使うサラブレッドなどの「軽種」に分かれ、熊本産や青森産は重種が中心だが、会津産はほとんどが軽種という。重種は味わいが深いが肉が硬くサシが入った霜降りで、軽種は柔らかく赤身の肉種になっている。
会津坂下町には馬肉を扱う精肉店が7軒(他にスーパー有り)、飲食店が約20軒(内精肉店直営3軒)あるという。*パンフレット出処:会津坂下町観光物産協会「ばんげ美味・馬マップ」(PDF) 各精肉店では、店独自の辛子味噌ベースの薬味が用意されている。 *参考:拙著「会津坂下町「馬肉・地酒」 2018年 冬」(2018年12月26日)
レストラン(飲食店)を併設した精肉店が3軒あるが、今日訪れた「焼肉たけはら」は「竹原肉店」の建物を同じくした併設店だ。「焼肉たけはら」には、馬肉の中おちをたたいて載せた「どてちん丼」があり、数量限定のため“幻のメニュー”とも言われている。
今回は、この「どてちん丼」を食べたい、と会津坂下駅から徒歩圏内にある「焼肉たけはら」を訪れた。
*参考:
・福島県:JR只見線 福島県情報ポータルサイト
・NHK:新日本風土記「動画で見るニッポンみちしる~JR只見線」
・産経新聞:「【美しきにっぽん】幾山河 川霧を越えてゆく JR只見線」(2019年7月3日)
・拙著:「次はいつ乗る?只見線」カテゴリ ー只見線沿線の食と酒ー / ー只見線の秋ー
14:47、只見町塩沢地区にある「鷲ヶ倉山」登山、駅周辺の散策などを終え、会津塩沢“駅”から代行バスに乗る。
15:22、会津川口に到着。駅舎を通りホームに向かうと会津若松行きの列車が停まっていた。
列車は会津桧原を過ぎ柳津町に入り、滝原、郷戸を経て会津柳津に到着すると、大半の客が降りた。予想通り、ツアー客のようだった。
橋梁区間となる会津川口~会津柳津間、または会津宮下~会津柳津間の乗車は、特に紅葉シーズンに多くのツアーに組み込まれている。ありがたい事だと、改めて思った。
16:39、会津坂下に到着。降りたのは私だけだった。
駅舎上空は雲一つなく、月がくっきりと見えた。
自転車を輪行バッグにいれたまま、駅舎脇の空きスペースに置かせてもらい、西の方に歩き出した。
20分ほどで、「焼肉たけはら」に到着。精肉店が併設された、比較的新しい建物だ。去年、私は精肉店を訪れている。
焼肉店側の玄関。
店内に入る。開店(17時)間もないということもあり、客は居なかったが、全6テーブルのうち2つが予約席になっていた。
今日は開放されていなかったが、レジの向かい側には大広間もあるようで、40名までの宴会にも対応できるという。
スタッフに来店を告げると窓際の席を案内された。さっそく“トリアエズナマ”を注文し、メニューを見た。
牛と鶏もあったが、先頭に載っていたのはさくら(馬)肉。会津坂下町の店ならではの表示だと思った。焼肉は「さくらカルビ」と、別紙おすすめメニューの「さくらタン」を選んだ。
メニュー中央の下には、本日のお目当て「どてちん丼」があった。私は、“幻”と言われていることもあって、万が一品切れになっては困ると思い、最初のオーダーで頼むことにした。
そして、生肉は「さくら刺身」、と思ったが、メニューの写真を見て「さくらたたき」に魅かれ、注文することにした。
以上、4点を注文し、生ビールを呑みながら待った。
他、メニューには「さくらしゃぶしゃぶ」まであり、会津坂下町の精肉店ならではの品揃えに、感嘆した。要予約ということで、次回の楽しみにすることにした。
会計の時に聞いたのだが、今日のフロアは一人の女性スタッフが担っていた。6つのテーブルに、焼肉店という特質、冷蔵庫に保管された20種に迫ろうかという日本酒の選べる3種呑み比べ、等から一人では無理だろうと思ったが、案の定、今日はアルバイトの子が急きょ休みになってしまったのだという。このスタッフは、客が増えると、断りを入れながら休みなく給仕していたが、笑顔や気遣いを絶やす事が無かった。素晴らしいと思い、頭が下がった。
注文の品が運ばれてきた。
「さくらのタン」。牛タンとは違い、脂身が面積の大半を占めていた。
「さくらのカルビ」。一見、牛と変わらないと思った。
さっそく、網に載せて焼く。「さくらのタン」については、スタッフから『軽く炙る程度で美味しく召し上げれます』と、焼き過ぎない事をアドバイスされた。
焼肉の合間に「さくらのたたき」を食べる。旨い!と思い、笑みがこぼれた。
臭みなく、炙った縁の香ばしさに、新鮮で適度に脂身が乗った赤身の柔らかさが、何とも言えず旨かった。刺身でも食べられる新鮮な馬肉に、ちょっとした手間をかけた「さくらのたたき」は、大当たりだった。
入口にも掲示されていた“漢三人衆 飲み比べ”にも、「天明」と「央」が載っていた。
私は、会津坂下産の酒を呑もう、と飲み比べ三点セットを、冷蔵庫の中から選ぶことにした。20種を超える一升瓶と色とりどりのラベルから、見かけたことが無い3つを選んだ。
淡い藍色のラベルの廣木酒造「泉川 純米吟醸ふな口本生」、社長の息子の名前を冠した豊国酒造の「功嗣」、一見白ワインを思わせるポップなラベルと中身が印象的な曙酒造「天明 中取り 零号」。
3種とも、まずは新鮮な旨さが感じられた。「泉川」は濃厚で冷ながら香りが立ち、「功嗣」はさっぱりとした中にコクがあり、「天明」は見た目以上にすっきりとした、一口で言えばそんな吞み口だったが、三者三様の旨さで、会津坂下の酒蔵の地力に唸らされた。
食事も進み、締めにゆく。
注文から15分ほどでやってきた、「どてちん丼」を食べる事にした。
スタッフから、中おちを平らにして、凹みをつくり、そこにワサビをといた醤油をかけて食べるようにとアドバイスを受けた。さっそくそのようにしてみる。この形も食欲を掻き立てた。
食べる。臭みは一切なく、マグロの中おちより濃厚ながら、脂身はさっぱりし、香りも立った。会津産(と思った)のコメとの相性は言うこと無しで、うんうんと頷きながら、味わった。“幻”と謳われるだけの価値のある、素晴らしい丼だと思った。
店内は、予約席一つを除いで全て埋まり、新たにやってきた客が、あきらめて帰ってしまう事態になっていた。食事の終わり頃にも一組がやってきたので、私は店員に『空きますよ』と告げ、会計をした。
レジには、赤べこの三段重ね。会津をさらに実感させてくれる飾りだった。
「焼肉たけはら」での夕餉は、心から大満足と思えるものになった。今回は食べることができなかった馬肉(さくら肉)、吞めなかった地酒がある。また訪れて食し呑みたい、と心から思った。
駅にゆっくりと歩いて向かい、待合室で列車を待った。
20:21、会津若松行き最終列車に乗って、会津坂下を後にした。
20:48、会津若松に到着。私の他、一人の客が下りた。
改札を抜け、駅舎を眺めた。土曜日の夜だが、人がほとんど行き交う事のない寂しい駅頭だった。
ただ周辺のホテルは、GOTOトラベルの影響か大入りのようで、部屋の明かりが数多く点いていた。新型コロナウィルス影響の奇異さを思った。
赤べこのお尻越しに若松の夜空を見て、充実した一日を締めくくった。
(了)
・ ・ ・ ・ ・
*参考:
・福島県:只見線の復旧・復興に関する取組みについて * 生活環境部 只見線再開準備室
・東日本旅客鉄道株式会社:「只見線について」(PDF) (2013年5月22日)/「只見線(会津川口~只見間)の鉄道復旧に関する基本合意書及び覚書」の締結について(PDF)(2017年6月19日)/「只見線(会津川口~只見間)復旧工事の完了時期について」(PDF)(2020年8月26日)
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①福島県ホームページ:只見線復旧復興基金寄附金・只見線応援団加入申し込みの方法 *現在は只見線ポータルサイト「只見線応援団」URL:https://tadami-line.jp/support/
②福島県:企業版ふるさと納税
URL:https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/16005g/kigyou-furusato-zei.html
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(引用)寄附金は、只見線を活用した体験型ツアーや周遊ルートの整備、只見線関連コンテンツの充実化等に活用させていただきます。 沿線地域における日本一の秘境路線と言われる観光資源を活用し、更なる利用者の拡大と認知度向上を図ります。
以上、よろしくお願い申し上げます。
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