【参考】観光列車「リゾートしらかみ」乗車記 2020年 夏

「海の五能線」ことJR五能線を走る「リゾートしらかみ」号に乗車し、“観光鉄道「山の只見線」”を目指すJR只見線への観光列車導入を考えた。

 

現在、復旧工事が進められている只見線の会津川口~只見間は、復旧後は施設(駅舎やレール、路盤など)を福島県が保有し、その後の維持・管理を行う事になっている(上下分離)。

その福島県は、廃線の危機を脱し、国内屈指の観光路線として地位を確立した五能線を参考に、只見線の観光路線化を目指している。福島県知事と沿線自治体の首長は、五能線の列車に乗車し、沿線の観光地などの視察も行っている。*出処:福島民報 2018年8月30日、8月31日付け紙面

 

福島県が策定した「只見線利活用計画」では、「海の五能線」に並ぶ「山の只見線」を目指すとしている。 *参考:福島県 只見線再開準備室:只見線の利活用 URL: https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/16005g/rikatuyou.html 

この「海の五能線」では、1990年に運行を開始した企画列車「ノスタルジックビュートレイン」が1997年に「リゾートしらかみ」になり、現在では3編成3往復が、年間10万人もの乗客が利用するまでになった。


専用の観光列車が「海の五能線」を国内有数の観光路線にし、地域振興に役立っている。*出処:福島民友新聞 2020年8月30日付け紙面

  

 

私は12年前に「リゾートしらかみ」号に乗車し、今回が二度目になる。今日は、更新された車両であるHB-E300系に乗車する事になり、また違った旅になるだろうと思い、秋田に向かった。*参考:拙著「【参考】JR五能線「リゾートしらかみ」号 乗車記 2008年 夏」(2008年8月15日)

*「五能線」参考記事等:  

・JR東日本 秋田支社「五能線リゾートしらかみの旅」/絶景マッチング「五能線」

・国土交通省「第16回 日本鉄道賞」(PDF)(2017年9月29日)  

・全国町村会:町村長随想「五能線は健在なり-秋田県八峰町長 加藤和夫-」(2010年1月18日)  

・ITmedia ビジネスオンライン:地方創生のヒントがここにある「廃止寸前から人気路線に復活した「五能線」 再生のカギは“全員野球”の組織」 (2016年9月6日)  

・PHP Online衆知:遠藤功(ローランド・ベルガー日本法人会長)「五能線にみる「秋田発」のイノベーションと地方創生」(2016年7月23日)

 

 


 

 

今朝、宿を出発し秋田駅に向かう。上空には雲が広がっていたが、明るい場所もあり、思いのほか天気は悪くならないだろうと、安心した。 

 

輪行バッグを抱え構内を進むと、改札内の連絡通路に秋田犬の置物があった。

 

改札を通り、2番線に向かう。どうやら「リゾートしらかみ」号が使用するホームになっているようだった。 

   

  

ホームに下り、奥(南)の方を見ると、ヘッドライトを点けた「リゾートしらかみ」号が既に入線していた。

 

ホームは、「リゾートしらかみ」号の乗客を歓迎するような設えで、“橅”編成のブナ林、“青池”編成の青池、“くまげら”編成の夕陽、とそれぞれの車両デザインの元になっている風景が、大きな写真となり壁にラッピングされていた。

 

対面式のベンチがある場所には、大型ディスプレイが設置され、「リゾートしらかみ」号の紹介VTRが上映され続けていた。

   

 

列車の外観を確認するため、奥に進んだ。 車体のベースはブナの緑をイメージしたと思われるグリーンで、きれいに洗車もされていた。

 

先頭の横には、大きく“橅”(ぶな)の文字が表示され、ブナ林をイメージしたラッピングがグラデーション表示されていた。

  

2両目、3両目は白の車体色に、うっすらとブナ林を表現するデザインが施されていた。窓も大きく、年初に乗車した「海里」号と同じく、快速型の観光列車としては、充分すぎる程の雰囲気もった外観だった。*参考:【参考】観光列車「海里」乗車記 2020年 冬(2020年1月5日)

 

使われている車両は、「海里」号と同じハイブリットのHB-E300系。「リゾートしらかみ」“青池”編成がHB-E300に更新された後、2016年7月にキハ40系改造車両から置き換えられ、運行を開始した。 

JR東日本の資料によると、外観は『橅(ブナ)の木立ちをグラデーションで表現し、ナチュラルなグリーンの濃淡で優しい木漏れ日を感じさせるデザイン』という。 *出処:JR東日本「新型リゾートしらかみ「橅」編成の概要について」(PDF)(2016年7月16日)

  

 

車内に入り、内装や設備などを確認。 *注) 一部写真は出発後のものを使用

デッキは、白色を背景に、グラデーションでブナの木が描かれていた。

 

独立した洗面台の脇には、上下台に分かれた収納スペースがあり、少しはみ出て申し訳なかったが、輪行バッグを置く事ができた。

  

私が指定席を取った1号車に入る。シート色は、“東北の夏祭”をイメージしたという幾何学的な模様の暖色系。室内が華やかに見えた。

  

シートのピッチ(前後の幅)も広く、ゆったりと座られ、高く幅広の窓からの眺望をストレスなく楽しめるだろうと、列車の出発前から思う事ができた。

  

 全ての座席は通路より20cmほど高くなっていて、車窓からの眺めを良くしていた。

  

 

それぞれの座席には2つのテーブルが付いていた。ひじ掛けには、内蔵された小型テーブル。

  

前の座席の背面には大型テーブルが付けられていた。

    

 

1号車と4号車の運転席側には、秋田・青森産の橅を使ったシンボルツリーが立つ、イベントスペースを兼ねた展望室があった。座席部よりも大きな窓になっていて、座席部には無いフリーコンセントも設置されていた。

今日、このフリースペースでは、海岸線から離れる鯵ヶ沢駅から、津軽三味線の演奏会が行われるという事だった。 

  

 

天井材は秋田杉が使われ、車両の出入口上と真ん中の両側に、4基の液晶ディスプレイが設置されていた。 

  

 

2号車となるボックス席車両。「海里」号と同じ構造だが、白い壁と座席のカラーリング、床と天井の木材で温かみのある空間になっていた。

 

ボックス席は座席車両と同じデザインだったが、黄基調と赤基調の向かい合わせだった。中央の固定式のテーブルの上にはブナコ社製の照明が置かれ、温かみを感じた。

  

ボックス席は、海岸線を走る東能代~川辺間で海を見られるようになっているため、通路側の窓からは内陸の様子(白神山地など)を眺める事になる。その壁には、「リゾートしらかみ」号の停車駅が海と陸をイメージしたカラーリングの上に描かれていた。

  

 

3号車にある売店「ORAHO(おらほ)カウンター」。ここにもシンボルツリーが立てられ、海側には飲食スペースとなるカウンターとスツールが設置されていた。ちなみに、売店は“青池”と“くまげら”編成には無い。

  

「海里」号との違いは、残り半分の車内スペース。この「リゾートしらかみ」号“橅”編成は座席になっていた。

  

飲食スペースとなるカウンターにも、ブナコ社製の照明が置かれ、曲線に仕上げられたカウンターとともに、和みを感じる場になっていた。

前述したJR東日本の資料では、内装について『沿線のシンボルである橅や杉などの木材をふんだんに取り入れ、沿線の大自然を身近に感じていただくと同時に、温かみと安らぎを演出』との記載がある。

   

「リゾートしらかみ」号“橅”編成は、更新の新型車両であり、先に更新された“青池”編成よりも外観・内装と設備が洗練されたものであることが実感できた。

只見線沿線にも広いブナ林があることから、この“橅”編成は、只見線内を走っても違和感なく迎え入れられ、かつ客の乗車の満足度を高められると思った。

 

 

  

8:20、「リゾートしらかみ」1号“橅”編成が秋田を出発。ホームを静かに、滑るように走り出した。電車とも違う、ディーゼル・ハイブリット車両ならではの、走り出しだと再確認した。

 

「リゾートしらかみ」号は、全車指定席で、私は事前にネット(えきねっと)で予約していた。海の景色をよく見られるように、車両の両端以外でA席、という指定をし、乗車前に秋田駅で発券したところ1号車7番A席になっていた。

1号車には、他、何故か男性ばかり8名の乗客の姿があった。 

  

列車は、ディーゼルエンジン音をそれほど大きくする事無く、スピードを上げて快調に進んでいった。また、停車駅毎では、車掌により、その土地の説明や観光情報の放送がなされていた。

  

9:12、進行方向を変える東能代に到着。全ての「リゾートしらかみ」号停車駅にある、大きなイラストと観光情報入りの駅名標が印象的だった。また、青森寄りの待合室には、“くまげら”編成のイラストが大きく描かれていた。

9:19、列車は、私が乗る1号車を先頭に変えて、五能線に入っていった。 

  

 

9:24、能代に到着。“全国大会58冠”を誇る能代工業高があるバスケットボールの街、ということでホームに設けられたバスケットゴールへのフリースロー体験ができる事になっている。30人に迫ろうかという乗客が、次々とリングに向かってボールを投げ込んでいた。

 

10分の停車時間を終えると、フリースロー体験でボール渡しをされていた方を含め、3人の見送りを受けて列車は出発した。

 

  

 

9:50、八峰町に入り東八森を通過すると、車窓から海が見え始めた。ここから鯵ヶ沢の先まで、五能線は約87kmの大半を、海岸線に沿って走る事になる。

雲は相変わらず多かったが、上空は青い部分も広くなっているようで、良かったと思った。

 

 

 9:59、岩館漁港に続く海岸線を見下ろす区間を走る。

    

 

10:08、岩館を出発すると海岸線に近付き、徐々に高度を上げていった。列車は減速し始め、車内には『車窓からの景色をお楽しみください』という内容の放送が流れた。

そして、須郷岬を境に青森県に入ると、大間越海岸の美しい光景を車窓から見下ろす事になった。 

 

振り返ると、海岸の様子が分かり、見応えのある景観であると、より実感できた。


途中、4本のトンネルを潜ることになるが、徐行運転はしばらく続き、車窓からゆったりと眺める事ができた。

 

できれば、青空と真っ青な海を背景に見たいと思ったが、今朝の曇り空よりは大幅に天候も回復したことを良しとし、五能線で最も美しいと言われる眺望ポイントを通過した。

   

青森県側の海岸線は多様だった。

長く続く砂浜は無いが、磯を伴った浜があり、港町の穏やかな浜があり、田んぼが並ぶ海岸もあった。

  

 

10:54、深浦に到着。ここでは、青森からやってきた「リゾートしらかみ」2号“青池”編成とのすれ違いを行った。

“青池”は2010年9月に更新されHB-E300系になった。私が2009年8月に乗ったのは、更新される前のキハ48系改造車両“青池”だった。それに比べるとこの“青池”は洗練されていたが、全体がデザインラッピングされた“橅”と並べてみると、同じ車両だが、外観の違いが更新時期6年の差を感じさせてた。デザインの重要さを思った。 

 

 

10:58、深浦を出発した「リゾートしらかみ」1号“橅”編成は、海岸線に近付くと徐行運転を始め、車内には『行合崎海岸の景色をお楽しみください』という放送が流れた。

この区間は、五能線に沿って走る国道101号線から手軽に写真が撮れる。今回、私はこの“行合崎海岸を行く「リゾートしらかみ」号を撮影しよう”と計画していて、2時間後に撮影ポイントを訪れた。

  

 

11:10、追良瀬を通過すると、五能線の定番撮影スポットの一つである追良瀬海岸を通過。

 

続いて、轟木を通過するとテトラポットが並んだ海岸線を通過した。

  

 

11:23、千畳敷を通過。「リゾートしらかみ」号の上下6本中4本は、この駅で5分の観光停車を行っているが、私が乗る1号車と6号車の2本は停車しない。

  

 

 

 

 

11:42、鯵ヶ沢に到着。今回は、ここで「リゾートしらかみ」1号を降り、普通列車と自転車で、沿線の観光をしながら秋田方面に引き返した。

  

改札を抜け、駅舎を出ると、大きな“わさお”が出迎えてくれた。

 

今年6月8日に亡くなった、秋田犬「わさお」。捨て犬だったこともあり推定された年齢は13、人間に置き換えると90歳前半という長い犬生だった。

今回の旅の計画を立てた時に、「わさお」は元気を無くしていたものの生きていて、一目会いたいと思っていたが、叶わなかった。

 

駅舎の中央には、鯵ヶ沢駅観光駅長「わさお」追悼記念パネルが置かれ、数々の写真が展示されていた。

  

パネルの裏面にも、写真が貼られ、彼の表情の豊かさを心に焼き付ける事ができた。

 

菊谷節子さん(故人)に愛情を注がれて「わさお」は、多くの人に愛され、代わりに癒しを返してくれたのだろう、とこれら展示物を見て思った。

 

駅の中に設置されていた鯵ヶ沢町観光案内所には“わさお”に関連したお土産が置いてあり、私は「わさおサブレ」を頂く事にした。 

あまり時間が無かったが、鯵ヶ沢駅で「わさお」の面影に触れる事ができ良かった。次の機会、「わさお」が飼われていた、きくや商店まで足をのばしたいと思った。 

 

 

11:50、深浦行きの普通列車に乗り換え、秋田方面に折り返した。

列車はキハ48形で、車内は只見線で今年3月まで運行されていたキハ40形と変わらず、懐かしい思いがした。 

 

追良瀬海岸を走るとき、窓を開けて前方を見る。良い景色が見られ、普通列車がこれ(窓開け)ができるから捨てがたいと思った。

 

普通列車は列車の平均速度が低く、狭い間隔で各駅停車のため、車窓から見える景色は違ってくる。また、窓を開ける事もでき、より開放的な風景を見る事もできる。

JR東日本・秋田支社の東能代運輸区マイプロジェクトが編纂した「JR五能線の乗務員が厳選 各駅停車のススメ」(PDF)には、普通列車の楽しみかたが詳しく掲載されている。

 

 

 

12:41、海岸線沿いの広戸に到着。名前の響きや立地から、只見線の早戸駅を思い出した。

輪行バッグから自転車を取り出し、組み立て。列車の撮影をするため、深浦方面に移動を開始した。

  

 

途中、“神社俯瞰”と呼ばれる場所に立ち寄るが、夏草が生い茂りカメラのレンズに入り込むため断念。当初の予定通り、行合崎の岩場に向かった。

 

15分ほどで、深浦消防署の斜向かいにある現場に到着。

 

夏草が一部開けた場所を海側に進むと、撮影ポイントに現れた。

  

 

列車の通過まで約30分、写真の構図などを探りながら待った。岩場にはウミネコがいて、終始鳴き声が響いていた。

  

 

13:42、弘前行きの「リゾートしらかみ」3号“くまげら”編成が、ゆっくりと通過した。青空が消え、光量が少なく全体が暗くなってしまったが、構図はまずまずの一枚を撮る事ができた。

  

 

写真を撮り終え、途中スーパーで昼食を入手し、深浦に到着。自転車を輪行バッグに収納し、待合室で列車を待った。

  

14:36、東能代行きの普通列車が深浦を出発。次の目的地に向かった。

車内では遅い昼食を摂った。駅周辺の飲食店で、と考えていたが時間が無くスーパーで買った刺身盛り合わせとおにぎりで済ませた。旨かった。

  

 

  

15:08、十二湖に到着。ここから青池に向かった。

 

駅頭で再び自転車を組み立て、十二湖駅を出発。にわか雨は止んでいた。

  

 

途中、宿泊施設であるアオーネ白神十二湖の敷地内にある展望所に立ち寄った。

 

15:57、青森行きの「リゾートしらかみ」5号“青池”編成が、松神駅付近を通過。コンデジの光学ズームでは、精一杯の一枚になった。

 

続いて、北に目を向け、象岩・ガンガラ穴のある森山海岸付近を通る“青池”を撮影。

  

展望所からは白神山地も見え、なかなか良い眺望を得られた。

  

  

  

16:45、展望所を出た後は、ひたすら自転車をこぎ坂道を進み、左手に8つの池を見ながら進むと「青池」に到着。新型コロナウィルスの感染防止に関する注意書きが、大きく掲示されていた。

 

デッキを進むと、うっすらと霧に覆われた「青池」が現れた。

 

陽が差さず、色合いは鮮明ではなかったが、薄い群青色の水面は美しかった。

 

デッキは二段になっていて、さらに上から見下ろす事もできる。おそらく、太陽の光で無限の色合いを見せてくれるのだろうと思った。次は、晴れた日に来たい。

「青池」は津軽国定公園内にある「十二湖」のうちの一つ。「十二湖」とは総称で、実際は湖沼は33あるという。一説には、この十二湖群を作り出した崩山(939m)にある大崩(展望所)から見える湖沼が12ということで十二湖という名称になったとある。また、「十二湖」は白神山地の一部になっているが、世界自然遺産「白神山地」の登録地域からは外れている。*参考:環境省「日本の世界自然遺産」白神山地

十二湖駅から「青池」に行くには、奥十二湖駐車場まで路線バスを利用し、200mほど歩く事になる。この路線バスは「リゾートしらかみ」号との接続が良いダイヤになっていて、料金は片道370円になっている。 *参考:弘南バス㈱「弘南バスで行く 十二湖の旅

他方、只見線沿線には世界遺産は無いが、「只見ユネスコエコパーク」の登録エリアを列車が通っている。また、同登録エリア内にあり、越後三山只見国定公園内にある田子倉ダム湖など見応えのある観光資源もある。ただ、二次交通は整備されていないので、全線再開通後の課題になっている。 

 

  

17:06、「青池」から15分で坂道を下りきり、秋田行きの「リゾートしらかみ」4号“橅”編成が、西陽を浴びて走る姿を撮った。“橅”編成は、海辺より山林を背景にした方が映えると思った。 

  

 

17:49、十二湖から普通列車に乗り込み、一旦、青森方面に向かう。「リゾートしらかみ」6号から夕陽を見るためだ。

 

車窓から振り返ると、西陽を浴びた海岸線が綺麗に浮かび上がっていた。

  

 

18:05、ウェスパ椿山で下車。「リゾートしらかみ」号の停車駅で、駅名標には夕陽が描かれていた。

 

駅周辺を散策していると、雲に隠れていた太陽が顔を出し、綺麗な夕陽となって西の空を下り始めた。

  

 

18:48、「リゾートしらかみ」6号“くまげら”編成に乗り込み、ウェスパ椿山を後にする。


指定席は1号車だったが、驚いたことに先客はゼロで、終点の秋田まで車両を独り占めする事になった。夏休み期間の人気観光列車の閑散に、新型コロナウィルスを恨まずにはいられなかった。

  

 

列車が出発すると、まもなく西陽が後部の運転台を照らした。私は、車窓から夕陽が見られると思ったが、そうではない事に、この時点で気付いた。

   

 

列車が陸奥岩崎を通過し、笹内川を渡る時、車窓から綺麗な夕焼け空を見る事ができた。しかし、夕陽は艫作半島に隠れて見えなかった。

  

汐ヶ島の陰影と夕焼け空。

 

そして、黒崎漁港と夕焼け空。

  

大間越海岸に差し掛かる頃には、陽は落ち切ったようで、水平線上に残滓となる茜色の帯が現れ、それを群青色の空と海が包み込んだ。

今日は、午後から雲が多くなり、一時は雨も降ったが、夕焼け空が見られた事は僥倖だった。深浦から「リゾートしらかみ」6号に乗っていれば夕陽は見られたが、次回の楽しみにしたいと思った。

  

 

 

20:44、「リゾートしらかみ」6号は終点の秋田に到着。駅前は人通りも少なく、静まり返っていた。

  

二度目となった「リゾートしらかみ」号乗車は、只見線を意識したこともあって、別物になった。

車窓からの眺めは、“観光鉄道「山の只見線」”を目指す福島県が、五能線を“先生”とし「海の五能線」としただけあって、相変わらず素晴らしかった。また、屈指の観光地である「青池」へのアクセスは、今回私は自転車を使ったため利用できなかったが、駅から低額(370円)の路線バスが、列車の運行に合わせて走る姿が見られ、二次交通の充実を実感した。

  

この回の「リゾートしらかみ」号乗車で、強く再認識したのは、観光列車の重要性だ。 

大きく設えられた窓越しに、綺麗な景色をリクライニングシートに座りゆったりと見られる事から得られる満足感は、旅の非日常感を高め、『次はいつ乗ろう』と思わせる効果があると感じた。

 

現在、只見線にはキハ40形から置き換えられたキハE120形が走っているが、車内は通勤対応の設えで、吊り輪が車両の端から端まで二列に並んでもいる。車窓からの景色が良くても、車内に目を移すと現実に引き戻される。  

只見線が“乗る人”の立場に立ち、“乗る人”の満足度を高め、乗客増や途中下車による沿線への経済効果を高めるには、観光列車の導入が欠かせない。 

 

今回、往路で乗車した「リゾートしらかみ」号“橅”編成の調達費用は4両で14億円と言われている。福島県は、復旧費用の地元負担分27億円と、上下分割による運行経費2.1億円、それぞれの大半を負担し余裕はないかもしれないが、観光列車の調達に本腰を入れるべきだと思う。

只見線専用の観光列車が走る事が“観光鉄道「山の只見線」”のベースとなり、他の様々な企画やイベントの効果が出てくる、と私は今回の旅を通して思った。 

  

現在、福島県を中心に、只見線に関する様々な補助事業が行われているが、選択と集中を断行し、全線開通から時を経ずして専用の観光列車を走らせて欲しいと強く願う。

  

 

(了)

  

 

・  ・  ・  ・  ・

*参考: 

・福島県:只見線ポータルサイト只見線の復旧・復興に関する取組みについて * 生活環境部 只見線再開準備室 

・東日本旅客鉄道株式会社:「只見線について」(PDF) (2013年5月22日)/「只見線(会津川口~只見間)の鉄道復旧に関する基本合意書及び覚書」の締結について(PDF)(2017年6月19日) 

・NHK:新日本風土記「動画で見るニッポンみちしる~JR只見線」 

・産経新聞:「【美しきにっぽん】幾山河 川霧を越えてゆく JR只見線」(2019年7月3日) 

・拙著:「次はいつ乗る?只見線」カテゴリ ー観光列車ー / ー只見線の夏


【只見線への寄付案内】

福島県はJR只見線全線復旧後の「上下分離」経営での維持費や集客・地域振興策の実施費用として寄付を募集中(クレジット可)。 

①福島県ホームページ:只見線復旧復興基金寄附金・只見線応援団加入申し込みの方法 *現在は只見線ポータルサイト「只見線応援団」URL:https://tadami-line.jp/support/

  

②福島県:企業版ふるさと納税

URL:https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/16005g/kigyou-furusato-zei.html

[寄付金の使途]

(引用)寄附金は、只見線を活用した体験型ツアーや周遊ルートの整備、只見線関連コンテンツの充実化等に活用させていただきます。 沿線地域における日本一の秘境路線と言われる観光資源を活用し、更なる利用者の拡大と認知度向上を図ります。

   

 以上、よろしくお願い申し上げます。

次はいつ乗る? 只見線

東日本大震災が発生した2011年の「平成23年7月新潟福島豪雨」被害で一部不通となっていたJR只見線は、会津川口~只見間を上下分離(官有民営)し、2022年10月1日(土)、約11年2か月振りに復旧(全線運転再開)しました。 このブログでは、車窓から見える風景写真を中心に掲載し、“観光鉄道「山の只見線」”を目指す只見線の乗車記や「会津百名山」等の山行記、利活用事業に対する私見等を記します。

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