一昨日の「馬立山」に続いて、私選“只見線百山”候補の検証登山をした。今日はJR只見線・早戸駅を起点に、金山町の「荒倉山」(602.4m)に登った。
東北電力㈱第二沼沢発電所(地下)の南に位置する“荒倉山”は、地理院地図にも山名が載っていないということもあり、当初“只見線百山”の候補として入れていなかった。*下図出処:国土交通省 国土地理院「地理院地図」URL: https://maps.gsi.go.jp/
しかし、会津宮下駅での交換停車で、只見線の上り列車(会津若松行き)を待っていると、小出方面からやってくる列車の背後のほぼ正面に見える、岩肌が目立つ特異な山容の山が気になって、調べて見ると四等三角点「荒倉沢」を持つ山で、“列車撮影時に映り込む”という選定基準を満たすことから“只見線百山”の候補に入れることにした。
この山は無名だが、「点の記」では双耳峰を形成する西側のピークを“荒倉山”と記しているため、正確ではないが、便宜上「荒倉山」と呼ぶようにした。
「荒倉山」には登山道は無く藪山の可能性があり、また地理院地図の地形図(等高線)から急坂も一部有る、ということで残雪期に登ることにして今日を迎えた。
今日の旅程は、以下の通り。
・自宅のある郡山から会津若松に移動
・会津若松駅から只見線・会津川口駅行きの列車に乗車
・最寄りの早戸駅(三島町)で下車し、徒歩で登山取付き口まで移動
・作業道のヘアピンカーブの突端から尾根に取付き、山頂を目指す
・登頂後は、早戸駅方面に引き返し、途中「早戸温泉 つるの湯」に立ち寄り入浴
・早戸駅から只見線の列車に乗車し、七日町駅で下車し“元祖煮込みソースカツ丼”の店「なかじま」で夕食を摂った後、帰宅の途に就く。
天気予報は晴れ。山頂からの眺望に期待し、「荒倉山」登山に臨んだ。
*参考:
・福島県 :只見線管理事務所(会津若松駅構内)
・東日本旅客鉄道株式会社:「只見線について」(PDF)(2013年5月22日)/「只見線(会津川口~只見間)の鉄道復旧に関する基本合意書及び覚書」の締結について(PDF)(2017年6月19日)
・福島県:平成31年度 包括外部監査報告書「復興事業に係る事務の執行について」(PDF)(令和2年3月) p140 生活環境部 生活交通課 只見線利活用プロジェクト推進事業
・拙著:「次はいつ乗る?只見線」カテゴリ -只見線の春-
今回も、磐越西線の始発列車に乗るために、5時30分に家を出て郡山駅に向かった。
切符を購入し1番線ホームに向かい、待機中の列車に乗り込んだ。
5:55、会津若松行きの列車が郡山を出発。
沼上トンネルを抜け会津地方に入る。青空は続き、猪苗代手前では、山裾に多くのゲレンデを持つ「磐梯山」(1,816.2m、会津百名山18座) の全容が見えた。
7:11、会津若松に到着。駅舎上空には青空が広がっていた。
改札横には「ぽぽべぇ」と赤べこの親子が置かれていた。
このJR東日本・会津若松エリアのキャラクターである「ぽぽべぇ」は、駅スタンプ台にも描かれているが、今回初めて駅員の制服を着た彼に気づいた。やはり、愛らしく、素晴らしいキャラクターだと思った。
駅構内の売店で買い物を済ませ、只見線のホームに向かった。跨線橋から外を眺めると東に霞んだ「磐梯山」の山容を確認できた。
4-5番線ホームに下りてまもなく、只見線の上り列車が入線。部活に行くであろう高校生を中心の多くの客が降りた後、折り返し会津川口行きとなるこの列車の後部車両に乗り込んだ。
今回も、切符は「小さな旅ホリデー・パス」を使った。
7:41、只見線の下り列車が会津若松を出発。キハE120の2両編成で、先頭車両が7人、私が乗る後部は 3人という客数だった。
市街地の七日町、西若松を経て、列車は阿賀川(大川)を渡った。上流側には「大戸岳」(1,415.9m、同36座)山塊が見えた。
会津高田を出て、“高田 大カーブ”で進路を西から北に変え、列車は畔に雪を残す田園の間を掛けた。そして根岸を経て新鶴を出ると、右車窓から一昨日登った「馬立山」(488m)山頂が、台地のような低山の連なりの中で、わずかに突き出て見えた。
会津坂下町に入った列車は、若宮に停車。今年も旨いコメを育んでくれるであろう、会津平野の広大な田園が広がっていた。
8:19、会津坂下に停車。上り列車と交換をした。
会津坂下で数名の客を降ろした車内は、さらに閑散としたが、陽が空席を照らし、良い雰囲気を見せていた。
一旦、ディーゼルエンジンの出力を落とした列車は、一気に轟音を響かせ、七折峠の登坂を始めた。
登坂途上、塔寺手前では、木々の間から会津平野を見下ろせた。
七折峠の登坂を終え4つのトンネルを抜けると、“坂本の眺め”から「飯豊山」(2,105.2m、同3座)を主峰とする飯豊連峰がうっすらと見えた。*参考:公益財団法人 福島県観光物産交流協会「ふくしま30座」飯豊山
会津坂本では、貨車駅舎(待合所)に描かれた「キハちゃん」の出迎えを受けた。*参考:会津坂下町「只見線応援キャラクター誕生!!」(2015年3月13日) https://www.town.aizubange.fukushima.jp/soshiki/2/3337.html / YouTube「キハちゃんねる」URL: https://www.youtube.com/channel/UChBGESkzNzqsYXqjMQmsgbg
柳津町に入った列車は、会津柳津を出発し郷戸手前で“Myビューポイント”を通過。「飯谷山」(783m、同86座)がくっきりと見えた。*参考:拙著「柳津町「飯谷山」登山 2020年 初冬」(2020年12月6日)
滝谷を出発直後に、滝谷川橋梁を渡り三島町に入った。*以下、各橋梁のリンク先は土木学会附属土木図書館デジタルアーカイブス「歴史的鋼橋検索」
会津桧原を出て、桧の原トンネルを抜けると「第一只見川橋梁」を渡った。アナウンスは無かったが、スピードを落とし“観光徐行”してくれた。
下流側では、“只見線百山”候補で、昨春に登った「日向倉山」(605.4m)がよく見えた。*参考:拙著「柳津町「日向倉山」登山 2024年 春」(2024年4月13日)
上流側、駒啼瀬渓谷の様子も良く見えた。*只見川は東北電力㈱柳津発電所・ダムのダム湖
車内では、客が左車窓に移るなどして、スマホで撮影をしていた。
“観光徐行”はかなり長く、橋の中央部では『停まってしまう』と思うほどゆっくり動いてくれた。このため、右岸の正面、鉄塔の下にある「第一只見川橋梁ビューポイント」の様子も確認できた。カメラをズームにすると、Cポイントと最上部Dポイントには、それぞれカメラやスマホをこの列車に向けている“撮る人”がいた。
渡河後に名入トンネルを抜け、会津西方を出発直後に「第二只見川橋梁」を渡った。上流側には、「三坂山」(831.9m、同82座)がはっきりと見えた。*只見川は柳津ダム湖
そして、水面には列車と鉄橋の影が落ちていた。
渡河後、しばらくして次駅に停車するために減速した列車は、「アーチ3橋(兄)弟」の次男・宮下橋を見下ろしながら長男・大谷川橋梁を渡った。*参考:三島町観光協会(観光交流館からんころん)「『みやしたアーチ3橋(兄)弟』のビューポイント」(2013年6月16日) URL: https://blog.goo.ne.jp/mishimakankou/e/e93620f5690ee4e3adf6d1124b2f46e5
列車が会津宮下に停車し、上りの会津若松行きと交換を行った。列車の背後には、これから登る「荒倉山」がはっきりと見えた。
会津宮下を出た列車は、東北電力㈱宮下発電所の背後を駆け、宮下ダムの脇を通過。ダムはゲート1門を開け、放流していた。
宮下ダム湖を右に見ながら走った列車は、「第三只見川橋梁」を渡った。位置的に上流側に「荒倉山」があるのだが、この時は見る事ができなかった。
9:23、早戸に停車。2人組の客とともに降りた。
駅周辺の雪融けはかなり進んでいて、先月、全線が大雪により只見線が全線運休となった時の状態が噓のようだった。
9:30、目の前に活火山「沼沢」を見て、早戸駅を出発。県道237号線から作業道に入る3.6km先の地点まで、標高差が200mを越える“沼沢登山”を開始した。
早戸駅前の坂を上り、国道252号線を会津若松方面に進んだ。
国道の歩道は、さすがに除雪されておらず、融雪した細く延びる部分を歩いた。
緩やかな坂を上り、「早戸温泉 竹のや旅館」(2020年3月末日営業終了)の建物の前を通過。
そして右に曲がり、国道252号線と県道237号線を結ぶ町道野尻線を進んだ。
短い坂を下り、早戸地区と三更地区に架かる早三橋で只見川を渡り、金山町に入った。
渡河後、通行止めの標識があり、左カーブを曲がると、崖崩れ箇所の前にバリケードが置かれていた。ただ、左端に残った側溝の上は歩いてゆけるようで、そのまま進んだ。
崖崩れは只見川右岸で発生していた。崩落は川面まで達し、復旧工事は大掛かりになるだろうと思った。
坂を上って行くと、かつて“東洋一の水力発電所”と呼ばれた東北電力㈱沼沢沼発電所(2002年9月撤去)の水圧鉄管台座跡が姿を現していた。
そして、更に進むと県道237号(小栗山宮下)線にぶつかり、右に曲がった。県道237号線は降雪期は通行止めになっているが、道路情報には“落石の為”と記されていた。*参考:拙著「金山町・三島町「県道237号線」 2016年 紅葉」(2016年11月12日)
県道237号線を進んだ。坂は急になり、“沼沢登山”が本格化した。
4箇所目のヘアピンカーブの先には、融雪期にはっきりと見られる滝があった。
6箇所のヘアピンカーブを抜けると、右側が大きく開け、“只見線百山”の候補している「高畑」(830.6m)と「縦峰」(851.6m)がよく見えた。
県道の傾斜は更に増し、沼沢川沿いの狭隘部を進んだ。
両側の雪崩防止のフェンスやスノーキーパーは、巨大な雪塊を載せ。また受け止めていた。
厚みのある雪塊の力は強く、ワイヤー式ガードレールは曲り、スノーポールは折れていた。
坂の傾斜が徐々に緩くなり、前方に沼沢集落の屋根が見えると、分岐を示す標識が見え、まもなく作業道との分岐になった。
10:24、作業道入口に到着。早戸駅から54分で到着した。
作業道は除雪されていなかったため、ワカンとストックを取り出し、身に付けた。
そして、印刷してきた地理院地図を広げ、「荒倉山」までのルートを確認した。約半分は作業道を進み、その後、緩やかな傾斜の尾根に乗って、1箇所の深い鞍部を越すと山頂にたどりつくというルートを採るという計画を立てていた。
10:35、「荒倉山」に向けて、まずは雪上トレッキングを開始した。
動物の足跡は見られたが、綺麗な雪原を進んだ。
雪面は固く、ワカンが沈み込むことなく、足を進められた。
途中、看板が立っていて、正面に回ると「廻戸(まわっと)の一里塚」とあった。この作業道が『明治の中期までは宮下から沼沢・太郎布を経て川口に至るのが本道でした』と記されていた。
この看板を背に景色を眺めると、「高畑」が見えた。 雲一つ無い青空の下に広がる無垢の雪原と山は、美しいと思った。
更に進むと、雪面に動物の足跡があり、よく見て驚いた。シカやイノシシ、ウサギではなく、形状がクマのそれだったからだ。
表面が滑らかだったため、足跡は風雪にさらされ時間を経たものと思われた。足跡は2匹分で作業道を横断していたが、母グマの足跡を小グマがなぞり歩く姿を想像した。
雪が残る中、クマが出てきたとは考え辛かったが、あまりの暖かさにクマ母子が目覚めた可能性は否定できず、クマの存在を意識して先に進んだ。
県道との分岐から約20分、第二沼沢発電所の専用道路の門に到達。右斜面に沿って延びる作業道に入り進んだ。
斜面の上部には巨大な雪塊があった。『崩れ落ちたら、ひとたまりもないなぁ』と思いながら、急ぎこの下を通り過ぎた。
まもなく、作業道はスギ林の中に延びた。
『花粉まみれになるのでは...』と覚悟したが、下の方のスギの葉に花粉は見られなかった。
このスギ林の中の雪面は緩く、ワカンが20㎝以上沈み込む場所もあり難儀した。
スギ林を300mほど進むと、前方が明るくなった。ヘアピンカーブのようだった。
ヘアピンカーブは、沢を跨ぐようになっていた。
この沢は地理院地図に記載はなかったが、等高線では沢を示していた。そして、この沢をたどると、上ってきた県道237号線の“第4”ヘアピンカーブから見えた滝の場所にゆきついた。*下図出処:国土交通省 国土地理院「地理院地図」URL: https://maps.gsi.go.jp/ *筆者にて赤文字、沢の線(水色)などを記入
沢の上流側を見ると、一瞬『ケモノがいるっ⁉』とドキッとしたが、カメラをズームにしてみると折れ落ちたスギの葉の塊だった。
このヘアピンカーブを抜けると、坂の傾斜が少し増し、50mほど先に取付き点とした2つめのヘアピンカーブが見えた。
11:17、「荒倉山」登山の取付き点に到着。取付くカーブの突端の斜面は、雪が分厚く積もっていた。
さっそく、斜面を登り始めたが、5歩目で踏み込んだ左足が太腿まで埋まってしまった。ワカンを付けたままでは脱出できず、なんとか雪中でワカンを取り外し脱出できた。
体制を立て直しワカンを再装着し、斜面を登って尾根に乗った。東側が切れ落ちた尾根で、雪が無くても、歩き進む方向を間違うことは無いように思えた。
尾根はスギ林で、西側斜面はなだらかだったため、滑落の恐れもなかった。
尾根の縁に立つと、“只見線百山”候補の「洞厳山」(1,012.9m)の山塊が見えた。*参考:拙著「三島町「洞厳山」登山 2023年 早春」(2023年3月20日)
尾根の傾斜が徐々に増したが、雪面はそこそこ固く、深く沈み込むことがなかったため、快調に進めた。
小ピークになり、浅い鞍部に向かって少し右に折れて下った。
登り返しは、やや急坂だったが、ワカンの爪が雪を掴み滑らず進めた。
しかし、西からの風が徐々に強くなり、登坂の終盤、尾根に雪が無い部分にさしかかると、立っているのがやっとの強風になった。
やむを得ず、太めの木の影に隠れ、風の勢いが収まるのを待った。
帰宅後に地理院地図をよく見ると、この雪の無い部分は沼沢湖の浜を通り抜ける風の通り道になっているようだった。
越後山脈を越えた大陸からの西風が、沼沢の内輪山・惣山にぶつかり分かれ、低い沼沢湖の浜の狭い部分で合流し、勢いを増してこのポイントを吹き抜けるのだろうと思った。*上図出処:国土交通省 国土地理院「地理院地図」URL: https://maps.gsi.go.jp/ *色別標高図に、風の線(水色)、文字(白色)など筆者にて記入
強風ポイントから登山を再開し、まもなく前方が大きく開けた。
「荒倉山」西の602mピーク肩のようで、50mほど平たい山頂尾根が続いていた。そして、右側には「荒倉山」が見えた。
602mピークに向かって歩いてゆくと、左側の木枝の間から沼沢湖と「惣山」(816.3m)が見えた。
11:55、四等三角点「荒倉沢」の「点の記」に、“荒倉山”と記されている602mピークに到着。
東に目を向けると、「荒倉山」山頂が正面に見えた。
さっそく、鞍部に向かって急坂を下った。途中、左側の木枝の間に只見川の一部が見えた。
鞍部に到着し、「荒倉山」を見上げた。登り返しは急坂で、気合いを入れて登り進んだ。
急坂の半ばまでくると、数多くの岩の周りが融雪し、根開き箇所もあったため直登できず、雪の踏み抜きに注意しながらクネクネと進んだ。
20mほどのまだらな融雪箇所を過ぎると、点在する根開き箇所を除き、斜面は厚い雪に覆われた。
登ってきた融雪箇所を振り返った。結局、何度か雪を踏み抜いてしまった。
前方に山頂の開けた場所を見上げながら、ワカンの爪を確実に雪に噛ませながらゆっくりと進んだ。
そして、まもなく傾斜が緩くなり、麓の景色も見えてきた。
12:17、「荒倉山」山頂に到達。北東に開けた縁に進むと、蛇行する、エメラルドグリーンの只見川を中心に、素晴らしい景色が目に飛び込んできた。
よく見ると、一部だったが「第三只見川橋梁」が確認できた。
そこから右上方(北東東)に目を移すと、宮下ダムとその脇に敷かれた只見線のレールも見えた。
そして、宮下ダムのさらに上方(北東)には、宮下地区の市街地が広がり...、
カメラをズームにすると会津宮下駅が確認できた。3時間ほど前に列車越しに「荒倉山」を見た下りホームは、全体が見えた。
この北東の縁に近づいてみると、ほとんど垂直に切れ落ちていた。滑落すれば一気に有倉沢まで落ちてしまう危険箇所で、厳重注意が必要だと思った。
山頂からの眺望は北東だけで、他の方角はアカマツを中心とする木々に覆われていた。
眺望確認後は『三角点標石に触れて登頂祝い』ということで、「馬立山」と同じく雪を掘って標石探索をするつもりだった。しかしスノーバスケットを外してポールを雪面に刺したところ1m以上の積雪あったので、時間的な事もあり探索は断念し、「洞厳山」同様ポールを交差させて記念撮影をして、登頂祝いの代わりとした。
*「荒倉山」:四等三角点「荒倉沢」
基準点コード:TR45639144801
北緯:37°27′04″.1392
東経:139°36′06″.7217
標高(m):602.41
*出処:国土地理院地理院地図「基準点成果等閲覧サービス」URL:https://sokuseikagis1.gsi.go.jp/)
下山前に、しばらく北東の風景を眺めた。紅葉の時期は、更に素晴らしい景色が楽しめることは間違いなく、「荒倉山」は“只見線百選”相応しい山だと思った。
12:35、「荒倉山」山頂を後にして、下山を開始。急坂を慎重に下った。
滑落せずに鞍部達し、登り返した。
そして、最後に雪塊に崩して作った“階段”を登り、602mピークに乗った。
602mピークから振り返って、「荒倉山」を見収めた。
602mピークの山頂尾根から下り始めると、往路では気づかなった雪庇が見られた。
積雪の無い“強風ポイント”に差し掛かったが、この時は風がほとんど感じられなかった。
雪面の緩い場所は、自分の足跡をなぞって下った。
これまた往路では気づかなかったが、尾根はかなり痩せていて、無雪・有葉期でもルートロスは発生しづらいと思った。
13:03、作業道の取付き点に戻った。
踏み抜きに注意しながら作業道に下り、その後は自分の足跡にワカンを重ねながら進んだ。
13:14、第二沼沢発電所の専用道路との分岐を通過。
13:30、作業道が終わり、県道237号線との分岐に到着。下山時間は、約1時間だった。
無事に「荒倉山」に登頂し、山頂から見事な眺望を得ることができ、充実した検証登山ができた。
登ってみて「荒倉山」は文句なしに、“只見線百山”に入れるべきだと考えた。理由は次の3点。
①山頂眺望の素晴らしさ
②登頂するまでの急坂と深い鞍部の少なさ
③作業道を別れてからの進むべき尾根がはっきりしていて、道迷いの可能性が少ない
只見線・早戸駅からの二次交通は無いが、県道237号線と作業道の分岐までを“活火山・沼沢”登山とし、「荒倉山」登山と併せても、往復5時間ほどということで、登山としては許容の範囲だと思う。登頂後に移動し、駅手前に日帰り温泉施設(つるの湯)があるというのも魅力的だ。
さらに「荒倉山」登山は、近くにある沼沢湖に関わるアクティビティに多様性を加える。沼沢湖は、湖畔にはキャンプ場があり、ヒメマス釣りができ、カヤックやハサップなどの水上アクティビティができうる環境にある。そして、沼沢湖を取り囲む会津百名山「惣山」と「前山」の周回登山が楽しめ、圧巻の眺望も得られる。
この“沼沢湖アクティビティ”に、「荒倉山」登山が加われば、来訪者は滞在時間を延ばしリピーターとなり得る。今回は残雪期に登ったため無雪期の登山ルートの状況は不明だが、尾根が激藪で覆われていなければ、「荒倉山」は沼沢湖畔から山頂間を無理なく往復できる距離と標高だ。
今回知った「荒倉山」山頂からの眺望は、只見線沿線屈指のもので、“観光鉄道「山の只見線」”の魅力を高めると感じた。そして、只見線を囲む山々の中には、アクティビティの登山として勧められ、素晴らしい眺望を持つ山がまだまだあるのではないかとの期待を、今回の登山で得ることができた。
「荒倉山」登山後は、沼沢湖畔へ。
作業道分岐を左に曲がり、県道237号線を50mほど進んで右折した。
まもなく、沼沢湖畔となり、雪の上を歩いて浜に向かった。
沼沢湖の背後には、活火山「沼沢」の内輪山「惣山」(右)、「前山」(左)が綺麗に見え、良い雰囲気だった。この湖畔を取り囲むように「沼沢湖畔キャンプ場」があるが、降雪期を終えた晩冬から早春にかけてオープンしても良いのではないか、とも思った。
沼沢湖は作家・椎名誠氏が監督を務めた映画「あひるのうたがきこえてくるよ」のロケ地となったということで、湖畔には氏の直筆が刻印された石碑が置かれていた。
沼沢湖を後にして、沼沢集落を右に見ながら「沼沢」下山を開始し、温泉に向かった。
約50分で、「早戸温泉 つるの湯」に到着。駐車場には地元・会津ナンバーを中心に、多くの車が停まっていた。
ただ、浴室には思ったほど客はおらず、露天風呂にいたっては1人で占有することになり、ゆったりと浸かり「沼沢」と「荒倉山」登山の疲れを癒した。
【早戸温泉 つるの湯】*出処:温泉分析書(環分福第08107号)
・源泉名:早戸温泉源泉
・湧出地:三島町大字早戸字湯ノ平854番地の1
・泉温:52.9℃
・湧出量:192.7Ⅼ/min (動力揚湯)
・水素イオン:pH 7.0
・泉質:ナトリウム-塩化物温泉(低張性中性高温泉)
*弱塩味無臭で褐色沈殿物あり
列車の到着10分前に出れば間に合うと考え「つるの湯」を出たが、国道から側道に入り下ると列車が見えたので、慌ててホームに向かった。「つるの湯」から国道までは長い上り坂があるため、15分は必要だったと後悔しながら走った。
ホームに着くと、ちょうど列車が停車し、先頭車両に乗り込んだ。
15:53、会津若松行きのキハE120の2両編成が早戸を出発。両車両とも客は多かったが、BOX席に座ることができた。
早戸を出た直後、たて続けに2つの長いトンネルを抜け、「第三只見川橋梁」を渡った。渡河が終わる間際に、右車窓から振り返って見ると、「荒倉山」が見えた。登り終えた山を、列車の中から見られるのは、より達成感が湧き良いと思った。
この「第三只見川橋梁」の下流側の正面、只見川左岸の斜面に通されている国道252号線高清水スノーシェッドの内には撮影ポイントがあり、橋梁を渡る列車を撮影すると「荒倉山」が映り込む。
車内では「つるの湯」の売店で購入した缶ビールで、「荒倉山」登頂祝いをした。旨かった!
郷戸を出て、“Myビューポイント”を通過。朝見た光景とは違い、「飯谷山」山塊を背後に広がった、西陽を受けわずかに色付いた雪原は、美しかった。
会津柳津に停車すると、多くの客が降りた。中華圏の方を中心とする、インバウンドのようだった。会津川口~柳津間での只見線乗車を組み込むツアーは、引き続き人気を得ているようだと思い、嬉しくなった。
会津坂本では、西陽を浴びた「キハちゃん」に見送られた。
七折峠を越えて、列車は会津平野に滑り込んだ。往路から雪融けが進んでいるように見えた。
17:20、「なかじま」で夕食を摂るため、七日町で下車。ホームの端の方に移動し、「磐梯山」を眺めながら列車を見送った。
七日町駅は2002(平成14)年は、七日町通りまちなみ協議会などにより大正浪漫調に改修され、みやげ物などを扱う駅カフェを併設している。
七日町駅から歩くこと20分で、“元祖煮込みソースカツ丼の店”「なかじま」に到着。
店に入ると先客は3人で、私はカウンター席に座った。
メニューを一通り見たが、予定通り、定番の「煮込みソースカツ丼」を注文した。
5分ほどで、味噌汁とお新香のついた「煮込みソースカツ丼」が運ばれてきた。
一見、一般的なカツ丼だったが、食べるとソースの味が際立つソースカツ丼だった。
一般的なカツ丼はだし汁がしみ込んでいるが、この「煮込みソースカツ丼」はソースがカツ全体にしみ込み、とじた玉子と相まって、独得の旨さを感じた。店のHPに記されている“日本中は勿論、会津若松のここでしか味わえないカツ丼”が納得できた、味と食感が残る忘れられない逸品だった。
(了)
・ ・ ・ ・ ・
*参考:
・福島県:只見線ポータルサイト
・福島県・東日本旅客鉄道株式会社 仙台支社:「只見線全線運転再開について」(PDF)(2022年5月18日)
・NHK:新日本風土記「動画で見るニッポンみちしる~JR只見線」
・産経新聞:「【美しきにっぽん】幾山河 川霧を越えてゆく JR只見線」(2019年7月3日)
【只見線への寄付案内】
福島県はJR只見線全線復旧後の「上下分離」経営での維持費や集客・地域振興策の実施費用として寄付を募集中(クレジット可)。
①福島県ホームページ:只見線復旧復興基金寄附金
・只見線応援団加入申し込みの方法
*現在は只見線ポータルサイト「只見線応援団」URL:https://tadami-line.jp/support/
②福島県:企業版ふるさと納税
URL:https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/16005g/kigyou-furusato-zei.html
[寄付金の使途]
(引用)寄附金は、只見線を活用した体験型ツアーや周遊ルートの整備、只見線関連コンテンツの充実化等に活用させていただきます。 沿線地域における日本一の秘境路線と言われる観光資源を活用し、更なる利用者の拡大と認知度向上を図ります。
以上、宜しくお願い申し上げます。
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