魚沼市「そば処 平石亭」 2020年 紅葉

駅舎の2階にある蕎麦の名店「そば処 平石亭」に行くため、会津若松駅からJR只見線の列車の乗って大白川駅(魚沼市)に向かった。

 

「そば処 平石亭」は開店から10年を超え、地元のみならず県外からの観光客にも人気の繁盛店だ。ご主人は蕎麦を栽培する農家だったが、大白川駅の2階が空くことになったことから「そば処 平石亭」を開業したという。

『大白川駅の中に旨い蕎麦屋がある』とは聞いてたが、訪れる機会が無かった。今回、只見町で「金石ケ鳥屋山」登山の計画を立てるにあたり、只見線を利用し、お隣の魚沼市まで足を延ばし「そば処 平石亭」を訪れる事にした。 

 

*参考:

・(公社)新潟県観光協会:にいがた観光ナビ「JR只見線

・(一社) 魚沼市観光協会:秘境を行く! JR只見線

・魚沼市 だんだんど~も只見線沿線元気会議:Facebook (URL: https://www.facebook.com/dandandomotadamisen )

・BSN新潟放送公式チャンネル:【そらなび ~にいがたドローン紀行~】「第73回「只見線(魚沼市)」2020年2月29日放送

・福島県:只見線ポータルサイト

・拙著:「次はいつ乗る?只見線」カテゴリ ー只見線沿線の食と酒ー / ー只見線の秋

  



 

 

前日、富岡町から会津若松市入りし宿泊。今朝、只見線の始発列車に乗るため駅に向かう。未明の空が駅舎を包んでいた。


切符を購入し改札を通り、連絡橋から只見線のホームを見下ろすと、2両編成の会津川口行きが待機していた。北東の磐梯山は、山頂だけに雲が掛かり、両裾の山稜はくっきり見えた。

 

6:03、列車が会津若松を定刻に出発。私が乗る後部車両は他に乗客はおらず、先頭には2人が居た。紅葉のシーズンが終わったとはいえ、車窓から色づく木々を未だ見る事ができ、早朝の冴えた景色は見応えがある事を考えると、残念だった。新型コロナウィルスの影響、と思いたかった。

 

会津若松~大白川間の運賃は1,980円。今日は只見町で泊まるため、片道切符を購入した。

  

 

列車は、七日町西若松で数人の乗客を乗せ、大川(阿賀川)を渡る。晴れの予報だが、明けはじめた空には雲が広がっていた。

  

会津本郷を過ぎ会津美里町に入り、列車は会津高田を過ぎ、会津盆地を包み込むように右大カーブで進路を真北に変えた。


右の刈田越しに「磐梯山」が見えたが、頂上の雲は消え、曙色の空を背景に綺麗な山影を見せていた。

  

 

根岸新鶴を経て、会津坂下町に入り若宮から会津坂下に停車し、上り列車とすれ違いを行った。ホームには高校生を中心に多くの乗客が居た。

 

 

会津坂下を出発し、住宅地を抜けると冠雪した飯豊連峰が見えた。


列車は、ディーゼルエンジンの出力を上げ、七折峠に向かった。


 

 

塔寺会津坂本を経て柳津町に入り、会津柳津を出発して間もなく、郷戸手前で“Myビューポイント”を通過。空は秋晴れで、「飯谷山」(783m)の山稜が綺麗に見えた。この山には、今年中に登る計画を立てている。

 

 

滝谷を出発直後に滝谷川橋梁を渡り、三島町に入る。渓谷は、見頃は過ぎていたが、未だ見ごたえのある色づきだった。 *以下、各橋梁のリンク先は土木学会附属土木図書館デジタルアーカイブス歴史的鋼橋集覧


  

 

会津桧原を出発し、桧の原トンネルを抜けると「第一只見川橋梁」を渡った。下流側は、手前側が未だ陽が当たらず、正面の「日向倉山」(605m)の山並みが明るく照らされ、はっきりと陰影を創っていた。


 

会津西方を過ぎ「第二只見川橋梁」を渡る。只見川(柳津ダム湖)の水面に水紋は見られず、鏡のような冴え具合だった。

  

列車はスピードを落とし、“アーチ3橋(兄)弟”の次男・宮下橋を見下ろしながら、大谷川橋梁をゆっくり渡った。 *参考:埼玉県 観光課「【橋りょう】新宮下橋・JR只見線大谷川橋梁・宮下橋〔三島町〕

 

会津宮下では上り列車とすれ違いを行った。会津若松行きには、3名の客が乗り込んでいた。右に見えるのは「三坂山」(832m)。この山にも、今年中に登りたいと思っている。

 

   

会津宮下を出発すると、列車は東北電力㈱宮下発電所・宮下ダムと並行して走る。只見川(宮下ダム湖)には水紋が見られ水鏡とはなっていなかったが、朝陽による紅葉の陰影が見えた。

  

 

第三只見川橋梁」を渡り、下流側を眺める。色づいた木々の陰影は美しかったが、写真では、陽射しが強く、色抜けてしまった。撮影技術の無さを痛感。

  

 

列車は、滝原トンネルと早戸トンネルを潜り抜け、早戸を経て金山町に入り、細越拱橋を渡る。宮下ダムの貯水量が少ないようで、只見川の川床が見えていた。

  

会津水沼の空きスペースには、軌陸用のバックホーや2tダンプが多数置かれていた。

 

 

会津水沼を出発してまもなく、「第四只見川橋梁」を渡る。東北電力㈱上田発電所・上田ダムの直下で、もともと水深は浅いが、今日は右岸の川床が広く露出していた。

  

宮下ダム湖(只見川)の貯水量の少なさを不思議に思ったが、後で分かった。明後日の月曜日から金曜日まで、会津宮下~会津川口間で橋梁修繕工事を行うとの事だった。会津水沼に並んでいた工事車両の多さにも合点がいった。 

2022年度の全線再開通以降、現運休区間(会津川口~只見)を上下分離方式で保有することになる福島県は、このような定期的なメンテナンスを行わなければならない。「第五」「第六」「第七」「第八」の巨大鉄橋の保守はコストがかかるだろう。行政側の工夫はもちろんだが、税金で支える事になる県民の覚悟も必要になる。

いずれこの区間は、収支を高め、地域住民に必要不可欠な鉄路へと押し上げ、事業所であるJR東日本が株主の理解を得られる形で、再び保有することになるようにしなければならない、と私は考えている。沿線自治体と福島県の政治・行政が先導し、住民・県民を巻き込む持続的な活動を期待したい。

 

「第四只見川橋梁」を渡り終えると、国道288号線の新しい道路が供用されていた。拡張工事と思っていたが、付け替えで歩道が設けられていなかった。これが、工事の最終形にならぬようにと願った。

 

   

会津中川を経て、只見川が近づくと、列車はスピードを落とし、車内には終点を告げる車内放送が流れた。前方には水鏡にくっきりと姿を映した林道の上井草橋が見えた。

 

車窓から振り返り、大志集落を見る。集落部分に水紋があったものの、冴えた水鏡が山並みや空模様を写していた。綺麗だった。

  

沢の水が落ち込む場所には水紋が出ていたものの、今朝の只見川(上田ダム湖)の水鏡は美しく、見応えがあった。

秋から冬にかけて空気が澄む季節、只見線の始発列車に乗る事で見られるこの景色。周知されれば、多くの観光客が始発列車の乗車率を上げるだろうと、改めて思った。 

 

 

  

8:06、終点の会津川口に到着。

 

ここから先が「平成23年7月新潟福島豪雨」被害による運休区間で、再来年度の全線再開通に向け、工事が進められている。

  

駅舎を出ると、代行バスが駅頭に付けられていた。

8:15、私を含め2名の客を乗せ、只見行きの代行バスが会津川口を出発。

 

代行バスは、ほぼ只見線に並行して走る国道252号線を進む。西谷地区の坂を下ると、右手に「第五只見川橋梁」が見えた。右岸の橋桁が架けられ復旧工事はほとんど終わっていたが、既橋の塗装が行われるのか気になった。

  

本名“駅”を経て、東北電力㈱本名発電所・本名ダムの天端となっている本名橋を渡り、左手に「第六只見川橋梁」を見る。復旧工事遅延の原因となった左岸のアンカー工事も無事に済んだようで、両岸に鉄塔が立ち、ケーブルエレクション工法による再架橋工事が進められていた。

只見川の上に吊られた受梁が朝日を浴び輝いてた。9年を過ぎて再び両岸が繋がる実感がわいた。安全に工事が進められ、無事に完成する事を願った。

 

会津越川“駅”、会津横田“駅”を経て、刈田越しに「第七只見川橋梁」を見る。下路式トラス橋の、緩やかな曲線を持つ上弦が顔を出していた。また、架橋部分の工事は終わったようで、右岸の鉄塔の解体が始まっているようだった。雪が本格的に降る前にここまで進み、安心した。 

 

 

会津大塩“駅”出発後、滝トンネルを潜り抜け只見町に入り、会津塩沢“駅”を経て寄岩橋上から「第八只見川橋梁」を見る。路盤法面や護岸工事が進められていた。

 

 

 

9:05、会津蒲生“駅”を経て、終点の只見に到着。駅舎の北にある「要害山」(705m)の紅葉は終わり、全体が茶色になっていた。

  

駅舎に入り、ホームに移動すると、まもなく、小出からやってきた列車が入線してきた。

 

会津川口方面を眺める。路盤やレールの整備(復旧工事)は終わったようで、列車が通っても違和感のない状態に見えた。

9:30、折り返しの小出行きの列車が只見を出発。先頭車両に3名、私が乗る後部車両に2名の乗客だった。

   

只見スキー場の前を通り過ぎ、短いトンネルとスノーシェッドを潜り抜けると、前方に電源開発㈱只見ダムの洪水吐ゲートと、その後方に田子倉ダムの躯体が見えた。

  

 

田子倉トンネル(3,712m)を抜け、余韻沢橋梁を渡り田子倉(ダム)湖を眺める。国道252号線白岩スノーシェッドの周辺に、色づいた木々があり、わずかに秋の雰囲気を感じる事ができた。

 

この後、列車は田子倉駅跡を通過し、福島県と新潟県の県境、“会越の国界”となる六十里越トンネル(6,359m)に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

六十里越トンネルは序盤で上りから下りに変わり、7分ほどで潜り抜け新潟県魚沼市に入った。列車は末沢川の清流と交差を繰り返し、快調に下った。

 

 

列車はスピードを緩め、緩やかに左に曲がった「第五平石川橋梁」を渡る。見頃は過ぎていたが、未だ木々の色付きは残っていた。

  

 

  

9:59、大白川に到着。待避線には除雪車が停車していた。

  

ホームは破間川の清流に正対している。上田ダム湖(只見川)が眼前に広がる会津川口駅とは対照的な景観で、只見線を取り囲む景色が会越(福島県と新潟県)でそれぞれ違うことを示す象徴的なものになっている。

   

駅舎は2階建てで、その2階部分が今日の目的地、「そば処 平石亭」になっている。

 

駅舎正面は、国道252号線に面している。開店前だったが、駅頭の駐車スペースには多くの車が停められていた。大半は、地元の長岡ナンバーだった。

  

「そば処 平石亭」は土日祭日に開かれ、11時~15時のランチタイム営業となっている。今年は勤労感謝の日(11/23)が最終営業日だと掲示されていた。

  

 

1階には列車乗客の待合室もあるが、壁を隔てた「そば処 平石亭」の階下には、その3倍もの広さのスペースがあり、2015年3月14日に廃止された隣駅・柿ノ木の駅名標などが置かれていた。

  

2階に上がり、テーブルに置かれた名簿に名前を記入。私は8番目だった。

 

待合スペースを取り囲むように、地域に生息するタヌキやテンなどの小動物、ヤマドリなどの鳥の剥製が置かれていた。


また、壁のいたるところに只見線や地域の自然を紹介する写真が貼られ、店主による墨書もあった。

 

店主の人柄が感じられ、蕎麦の味にも期待が持てた。

    

開店前の店内の様子。ホール中央に丸太のテーブル席が並び、窓側は縦に切り出された木目テーブル席で、椅子は全て丸太椅子に座布団という組み合わせだった。そして、奥に座敷席があり、和卓が2つ並んでいた。

  

 

 

10:58、開店時刻より少し早く、客の案内が始まった。女性スタッフが、名簿に書かれた名前を順番に読み上げていった。どうなるかと思ったが、8番目だった私は最後に呼ばれ、座敷席の空いている方に通された。4人未満のグループだと、8組まで入店できるようだった。

 

座敷の窓から外を見下ろす。ホームとレールが見えた。

  

厨房側の壁には、只見線の関する“掲示板”になっていた。除雪やSLの走行風景の写真、地元紙・新潟日報の連載「只見線 今むかし」などが貼りだされていた。

  

注文は「鬼面そば」と決めていた。水を給仕されると、その場で頼んだ。

魚沼産そば粉100%を、石臼で自家挽きして使用。それを、手打ちと手切りで提供するという。  プラス400円で「どぶろく」付きにできるというが、これから自転車で「六十里越」を越えるため、今日は我慢した。


 

20分ほどで、小鉢、蕎麦の順で運ばれ。やや遅れて天麩羅盛り合わせが給仕された。「浅草岳」に連なる「鬼ヶ面山」(1,465m)の山頂を思わせる蕎麦の盛りに、思わず見入ってしまった。

蕎麦は香り、のど越し、歯ごたえ、全てが素晴らしく、濃いめのつゆとの相性も良かった。『なぜ、もっと早く食べに来なかったのか...』と悔やむほど、旨い蕎麦だった。

 

天麩羅は揚げたてで、揚げ具合やころもの量も絶妙だった。舞茸と平茸は香りが立ち、季節を感じさせてくれた。薩摩芋、南瓜、ピーマン、ししとう、春菊、それぞれ素材の旨さを楽しむことができた。


小鉢もなかなかだった。 キクラゲの白和えと、舞茸と山菜のゴマ油炒め。酒が欲しくなる一皿だった。

   

そして、蕎麦湯と一緒に運ばれてきたのが「蕗味噌」。唸る旨さで、これだけで軽く二合の日本酒が呑める逸品だった。

20分ほどで完食し、順番待ちの客が多くいたこともあり、蕎麦湯をグィと飲み干し、席を離れた。 

 

 

表に出ると、駐車場には車があふれていた。ここまで来て食べたい、と思う気持ちに共感できた。

「そば処 平石亭」。食べてきた蕎麦の数は少ないが、その中では最上位の旨さだった。只見~大白川間は上下3本と少ないが、また只見線の列車に乗って、食べに来たいと思った。次は、どぶろく「大白川」を呑み、締めに蕎麦を食べようと思った。

 


(了)

 

 

・  ・  ・  ・  ・

*参考:

・東日本旅客鉄道株式会社:「只見線について」(PDF) (2013年5月22日)/「只見線(会津川口~只見間)の鉄道復旧に関する基本合意書及び覚書」の締結について(PDF)(2017年6月19日)/「只見線(会津川口~只見間)復旧工事の完了時期について」(PDF)(2020年8月26日)

・福島県 生活環境部 只見線再開準備室:「只見線の復旧・復興に関する取組みについて」/「JR只見線 福島県情報ポータルサイト

・NHK:新日本風土記「動画で見るニッポンみちしる~JR只見線」

・産経新聞:「【美しきにっぽん】幾山河 川霧を越えてゆく JR只見線」(2019年7月3日)

 

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②福島県:企業版ふるさと納税

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以上、よろしくお願い申し上げます。

次はいつ乗る? 只見線

東日本大震災が発生した2011年の「平成23年7月新潟福島豪雨」被害で一部不通となっていたJR只見線は、会津川口~只見間を上下分離(官有民営)とし、2022年10月1日(土)に、約11年2か月振りに復旧(全線運転再開)しました。 このブログでは、“観光鉄道「山の只見線」”を目指す、只見線の車窓からの風景や沿線の見どころを中心に、乗車記や「会津百名山」山行記、利活事業に対する私見等を掲載します。

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