“土休日の連続する2日間が普通列車乗り放題”となるJR東日本の「週末パス」が廃止されることになり、この土日が利用の最終日となった。今まで何度も利用してきたこの切符を使い、小出からJR只見線の列車に乗って、会津若松まで全線乗車した。
「週末パス」は2013年4月1日に発売が開始され、関東・甲信越・南東北エリアのJR東日本管轄線ばかりでなく、会津鉄道や阿武隈急行などの第三セクター路線や私鉄など14社の路線でも2日間乗り放題で、別途特急券を購入すれば新幹線などの優等列車に乗れるという鉄道度好きに重宝されたお得な切符だった。
しかし、販売数量の減少やJR東日本の“切符を紙からデジタルへ”という方針などの理由から、2025年6月27日販売分で「週末パス」は廃止されることになった。
私は首都圏で用がある場合、この切符を使い、何度か帰路を只見線経由にしたこともあった。また、只見線を利用した旅行者のSNSなどを見ると、「週末パス」は首都圏在住の方の只見線乗車・会津観光で多く利用されているようだった。
今回、都内での用をこの「週末パス」利用最終日に合わせ、帰路で只見線を利用する計画を立てた。只見線に関するSNSを見ると“「週末パス」利用最終日、只見線は混雑するのでは”という情報があり、実際を見てみたいというのがこの旅を計画した大きな理由だった。
この土日の天気予報は晴れで、車窓から本格的な夏を迎える沿線の風景を眺めながら只見線の旅を楽しんだ。
*参考:
・福島県:只見線ポータルサイト
・NHK:新日本風土記「動画で見るニッポンみちしる~JR只見線」
・産経新聞:「【美しきにっぽん】幾山河 川霧を越えてゆく JR只見線」(2019年7月3日)
・東日本旅客鉄道株式会社:「只見線について」(PDF)(2013年5月22日)/「只見線(会津川口~只見間)の鉄道復旧に関する基本合意書及び覚書」の締結について(PDF)(2017年6月19日)
・拙著:「次はいつ乗る?只見線」カテゴリ -只見線の夏- / -只見線沿線の食と酒-
今回の旅のスタートは群馬県高崎市から。前日、都内での用事を済ませて移動し、上越線の起点となる高崎に前泊した。
今朝、高崎駅上空には、雲一つない空が広がっていた。
上越線のホームに向かうと、多くの客が列を作っていた。輪行バッグを抱えたサイクルウェア姿ではないグループも見られ『輪行列車旅が広まってきたなぁ』と思った。
そして、列車が進んで行くと「越後駒ヶ岳」(2,002.7m)が姿を現した。
「越後駒ヶ岳」は「日本百名山」で、その著者・深田久弥はこの山を“魚沼駒ヶ岳 ”とし次のように記している。
(引用)
25 魚沼駒ヶ岳(二〇〇三米)
汽車旅行で窓から遠く見える山を一つ一つ確認してゆくのは、私の大きな楽しみである。上越線の清水トンネルを抜けて、越後魚沼の野を下って行く途中、私の眼を喜ばす山が次々と現われてくる。
普通魚沼三山と呼ばれるのは、駒ヶ岳、中ノ岳、八海山である。石打あたりから眺めると、八海山が見え、その右肩に駒ヶ岳が覗き、さらに右に続いて中ノ岳が全容を見せている。(後略)
*出処:深田久弥著「日本百名山」<新装版>(新潮社、p118)
この“越後(魚沼)三山”には、今年縦走での登山を計画している。この三山の山頂の所在は南魚沼市だが、只見線沿線が指定地域に含まれる「越後三山只見国定公園」を中心地で魚沼地域を代表し、そして車窓からも見えるこの山々を、私選“只見線百山”に入れたいと思っている。
11:12、列車が小出に停車、下車し長岡行きを見送った。
昼食を摂ろうと、駅から市街地に向けて歩いた。県道371号(堀之内小出)線の小出橋を渡ると、上流側に「中ノ岳」(2,085.1m)を中心とする“越後三山”が見えた。三山では「中ノ岳」の標高が最も高いが、小出地区からは一番奥まっているため、一番低く見えてしまっている。
「そば処 富永」に到着。前回夕方に訪れたが満席で断念。人気店のため、今回も『座れるだろうか...』と心配したが、扉を開けるとカンター席が空いていてホッとした。
カウンターの端に座り、さっそく注文。冷酒を呑みながら待っていると、しばらくして天ぷら蕎麦が運ばれてきた。
天ぷらはエビ、茄子、カボチャ、春菊、エノキダケで、サクッとした軽やかな衣で旨かった。
冷酒と合わせて天ぷらを楽しみ、〆に蕎麦をすすった。やはり旨い蕎麦だった。蕎麦湯も濃く、改めて良い蕎麦屋だと思った。
「そば処 富永」での食事を終え、駅に戻った。
小出橋を渡ると、下流側には先月登った二等三角点「大平」を持つ、こんもりとした山が見えた。*参考:拙著「魚沼市 二等三角点「大平」到達 2025年 春」(2025年5月4日)
そして小出橋が上越線をまたぐ部分になったので、只見線のホームを見てみると、びっくり!。大勢の客が2両編成の列車の、それぞれの扉の前で列を作っていたのだった。
『「週末パス」利用最終日、只見線は混雑するのでは』とは思っていたが、ここまで混むとは想定外だった。『これはまずい‼ 座れなかったら、会津若松まで4時間以上立ちっ放しだ‼』と焦り、急いで駅に戻った。
12:25、小出駅に到着。さっそく跨線橋を渡り只見線の4-5番線ホームに行くと、中高年の方を中心に20名を超える客が並んでいた。そのほとんどが観光客という出で立ちだった。
客の年齢層に違和感があったが、私も先頭車両の前扉の列に並んだ。私の前には5人だったが、内4人がグループ客だったので、何とか座れるだろうと思った。
強い陽射しを受け待っていると、高齢者のグループ客の一員と思われる方が跨線橋から降りて来て、皆と会話を始めた。目の前で話しているため丸聞こえで、曰く『こんな暑い日に、何で列車の扉を開けないのか⁉ とJRに電話をした』『JRからは規則ですから、と言われた』『駅員に同じことを言っても、(ワンマン運転のため車掌の役を兼ねた)運転手が準備をして乗車可能となるまでの時間は決まっていますのでお待ちください、と言われた』と。これに対してグループ内からは『こんだけ暑いんだから、杓子定規に対応しないで、扉だけ開けて乗せてくれてもいいのに』という旨の声が相次いだ。
私は、この陽射しの強さと暑さは異常でその意見も分からないでもないが、安全運行を実現するための乗車前点検や運転手の休憩取得などの労務規定を考えると、現状『この暑さじゃしょうがないですね、どうぞ車内へ』とはならないとも思った。
この問題の対策は、“気温は〇℃を超える予報だったら、出発の〇分前には乗車可能とする”などのJR内のマニュアルの改訂が必要で、長期的にはやはり座席指定可能な列車(観光列車)の設定が必要だと思った。
只見線が“観光鉄道「山の只見線」”として確立し、国内外の観光客や旅行業者に末永く愛されるためには、客に過大な不満を抱かせず『また乗ってみたい』とリピート意識を持ってもらう事が必要不可欠だ。今回の事態に遭遇し『只見線は観光鉄道にはなっていない』と思うと同時に、上下分離方式で只見線の一部(只見~会津川口 27.6km)を保有し、“観光鉄道「山の只見線」”の確立を目指す福島県は新潟県などの沿線自治体ともにJR東日本に働きかけ、スピード感を持って利用者に広く支持される只見線の観光鉄道化を進めて欲しいとも思った。*参考:福島県 只見線管理事務所「只見線の利活用」
13:15、12時45分頃に乗車可能となった列車は、遅れていた上越線下り列車を待って、小出を出発。私は無事に1×1BOX席に座る事にでき、「週末パス」を使った最後の旅を開始した。
車内は先頭のキハE120(旧国鉄色)、後部のキハ110ともにほぼ満席だった。
後で私の前に座った高齢の紳士に聞いたところ、JR東日本「大人の休日倶楽部」の優待券の利用最終期間中ということで、中高年の方が多いのだろうということだった。この紳士もこの切符を使い只見線に乗って、明日にかけて会津観光をするのだという。
車内の客層を見ると大半が中高年で、「大人の休日倶楽部」優待券の客で混雑していると思われたが、「青春18きっぷ」使用可能期間以外の只見線の観光客も中高年が多く、どちらの割合が多いのか判別がつかなかった。
列車は、右に大きく曲がりながら、「魚沼川橋梁」を渡った。上流側の“越後三山”は、雲に隠れることなく見えていた。*以下、各橋梁のリンク先は土木学会附属土木図書館デジタルアーカイブス「歴史的鋼橋検索」
藪神を出ると、“権現堂山”(「下権現堂山」(896.5m)、「上権現堂山」(997.6m))の稜線と「唐松山」(1,079.3m)が良く見えた。
ここから“呑み鉄”開始。
まず、只見線全線乗車恒例の“会越の地酒呑み比べ”の前に、新潟限定のビール「風味爽快ニシテ」を呑んだ。やはり、旨かった。
列車は快調に進み、「第一破間川橋梁」を渡った。川の水量は少なく、梅雨に入っても雨がほとんど降っていない状況を実感した。
越後広瀬、魚沼田中を経た列車は、「大倉沢橋梁」を渡った。眼下の破間川(藪神ダム湖)の水面は水鏡になっていた。
越後須原の直前で列車が減速すると、右車窓の前方に「守門岳」(1,537.3m)山塊が見えた。
そして、列車がホームに入ると驚きの光景が。ツアー客と思われる30名ほどの団体が、ホームを賑わわせていた。
列車が停車すると、この客が乗り込み、車内は首都圏の満員列車の如く、大混雑となった。この団体客がどこまで乗車するかは不明だったが、『この混雑では、ただ乗っているだけで、只見線の車窓からの景色の良さなど楽しんではいられないだろう』と思った。
ビールを呑み終え、“会越地酒の呑み比べ”とすることにした。今回選んだ越後の酒は青木酒造㈱(南魚沼市)「鶴齢」のワンカップ。アテは新潟限定のサラダホープ。
保冷バッグに入れて冷やしておいた「鶴齢」は、さっぱりとしていながら風味も感じられ、旨かった。
上条を出た列車は、しばらく進むと「鷹待山」(339m)を右に見ながら、半円を描くように右に大きく曲がった。
入広瀬を出ると民家と田んぼは一気に少なくなり、列車は破間川と5回交差しながら進んだ。
13:57、破間川の清流が眼前に見える大白川に停車。
ここで、列車内に詰め込まれていた団体客が降りた。越後須原駅から24.7km、約20分間の乗車で、彼等は『また只見線に乗ってみたい』という好印象を持ったのだろうかと思った。
大白川を出て、幾分車内に静けさを取り戻した列車は、破間川と分かれ末沢川に沿って進んだ。「第六末沢川橋梁」を渡ると、真っ赤な下部鋼材が印象的な、並行する国道252号線の茂尻橋が見えた。
現在国道252号線は、只見町の出逢橋の流出で新潟県‐福島県の通り抜けができない状態になっている。現在仮設橋が工事中で、この夏に供用が開始され、国道252号線は全通可能となる予定だという。
14:09、列車は、“会越界”の「六十里越トンネル」(6,359m)に突入した。
そして、田子倉駅跡が残るスノーシェッドを潜り抜けると、「余韻沢橋梁」から“只見沢入江”の先に田子倉ダム湖の中心部が見えた。
車中では、向かい座る紳士と話をしてきたが、彼は山形県の鶴岡市から田子倉ダムが見たくて只見線に乗車したという。当時“日本一”であった田子倉ダム建設のニュースに接し見学のために只見町に訪れた父親が、彼にこの旅の話を聞かせていて、彼はこの話が忘れられず『只見線乗ってみよう』と思ったという。今日、ようやく父親の軌跡を辿ることができた、と感慨深そうに話されていた。
14:25、列車は只見に停車。駅頭に設置されている“全線運転再開2022年10月1日”からのカウントボードは、1002(日)と表示されていた。
只見駅での停車時間は10分。この時間を利用して、地酒を入手しようと、国道252号線沿いにある松屋に向かった。
14:35、列車は只見を出発。さっそく“会越地酒の呑み比べ”。松屋で購入した開當男山酒造(南会津町)の「しぼりたて原酒」を呑んだ。ラベルに印字された製造年月が先月ということで、選んだ。
「しぼりたて原酒」は、口に含んだ瞬間新鮮な香りが立ち、濃厚で雑味を感じないノド越しで、旨かった。向かい側の紳士にもおすそ分けし、奥会津の沿線風景を見ながら酒宴を楽しんだ。
まもなく列車は、只見線最長の「叶津川橋梁」(372m)を渡った。前方には、“会津のマッターホルン”「蒲生岳」(828m、同83座)が、尖がった山容を見せていた。
会津蒲生を出て会津塩沢手前では「第八只見川橋梁」を渡った。対岸には電源開発㈱滝発電所・ダムのダム湖の浚渫作業の泊地があり、その上方には「鷲ケ倉山」(918.2m、同71座)が切り立っていた。
*参考:国土交通省 北陸地方整備局:東北電力㈱「平成23年7月新潟・福島豪雨」只見川・阿賀野川における対応について(PDF)(平成24年5月30日) / 東北電力㈱ 研究開発レポート2018:「只見川流域を対象とした浚渫土砂の有効利用に関する研究」(PDF)
15:16、会津越川を出て橋立集落の背後を駆けると、民宿「橋立」の駐車場隅に建てられた、只見線(135.2km)中間点を示す看板(ここが、只見線の真ん中だ!)の前を通過した。
本名を出てしばらく進むと「第五只見川橋梁」を渡った。水面の水鏡は冴え、周囲の緑と空を、綺麗に映し込んでいた。*只見川は東北電力㈱上田発電所・ダムのダム湖
宮下ダムの脇、東北電力㈱宮下発電所の背後を駆けた列車は会津宮下を経て、会津西方手前で「第二只見川橋梁」を渡った後、名入トンネルを抜けて「第一只見川橋梁」を渡った。
上流側、駒啼瀬右岸の正面上方に立つ送電鉄塔の下に向けてカメラをズームにすると、多くの“撮る人”に姿があった。最上段Ⅾポイントには14人、その下のCポイントには4人の人影が確認できた。
“高田 大カーブ”で進路を再び東に変えた列車は、会津高田を経て会津本郷直前で会津若松市に入り、大川(阿賀川)を渡った。正面には、西に傾いた陽光を受けた「大戸岳」(1,415.7m、同36座)の山塊が見えた。
17:24、只見線全線を快調に駆けた列車が、定刻に終点の会津若松に到着。
乗客は多く、旅行客を中心に、跨線橋はかなり混雑した。
跨線橋から改札口につながる1番線ホームに下りると、相席した紳士と分かれた。氏は、今夜会津若松市内に泊まり、明日は会津鉄道に乗車し旅を続けるという。氏のおかげで「週末パス」最後の旅は印象深いものになった。
18:36、会津若松から磐越西線の列車に乗り換え、自宅のある郡山に到着。
今回、「大人の休日倶楽部」優待券使用期間が重なり、「週末パス」の効果を確認できなかったが、ほぼ満席の只見線の列車の状態が見られて嬉しく思った。
只見線の利活用、乗客増ならびに沿線への観光客の流入・滞在には首都圏の旅行者が大きなカギを握る。首都圏と只見線が乗り放題エリアに含まれる「週末パス」は、彼等に只見線列車旅の門戸を広げていたと思われる。また、特急券を購入すれば新幹線にも乗れるというとで、新幹線に挟まれた只見線に時間的な旅の多様性を与えてくれていた。「週末パス」の廃止は、只見線にとって大きな痛手だと私は思っている。
今後、首都圏の旅行者の取り込みを考えるうえで、「週末パス」に代わるような切符は必須だと私は思った。「只見線の利活用」を中心となって進めている福島県は、首都圏の旅行者が只見線に乗って福島に訪れ旅したくなる新たな切符を企画し、JR東日本に提案し、必要であれば費用分担まで踏み込んで実現して欲しい、と今回の旅を通して思った。
(了)
・ ・ ・ ・ ・
*参考:
・福島県 :只見線管理事務所(会津若松駅構内)
・福島県・東日本旅客鉄道株式会社 仙台支社:「只見線全線運転再開について」(PDF)(2022年5月18日)
・福島県:平成31年度 包括外部監査報告書「復興事業に係る事務の執行について」(PDF)(令和2年3月) p140 生活環境部 生活交通課 只見線利活用プロジェクト推進事業
【只見線への寄付案内】
福島県はJR只見線全線復旧後の「上下分離」経営での維持費や集客・地域振興策の実施費用として寄付を募集中(クレジット可)。
①福島県ホームページ:只見線復旧復興基金寄附金
・只見線応援団加入申し込みの方法
*現在は只見線ポータルサイト「只見線応援団」URL:https://tadami-line.jp/support/
②福島県:企業版ふるさと納税
URL:https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/16005g/kigyou-furusato-zei.html
[寄付金の使途]
(引用)寄附金は、只見線を活用した体験型ツアーや周遊ルートの整備、只見線関連コンテンツの充実化等に活用させていただきます。 沿線地域における日本一の秘境路線と言われる観光資源を活用し、更なる利用者の拡大と認知度向上を図ります。
以上、宜しくお願い申し上げます。
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