南会津町 “福島県内初”「地酒試飲自販機」 2018年 初夏

南会津郡南会津町の会津田島駅に県内で初めて設置された「地酒試飲自販機」を利用したいと、JR只見線の列車に乗車し只見町に入り、町内を巡った後、「ツアーバス」を利用し現地に向かった。

 

先日発表された「平成29年酒造年度 全国新酒鑑評会」で19銘柄で金賞を受賞し、史上初の“6年連続最高数受賞”を記録した“日本酒王国”福島県。(以下、記事出処は地元紙の福島民報)

この新酒鑑評会が酒造所の『製造技術と品質の向上』を目指している事から、福島県の酒造りの技術は“全国一”と言う事もできる。

 

他、味や風味、呑み方を競う「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」、「SAKE COMPETITION」、「全国燗酒コンテスト」等でも福島県勢は好成績を収めており、これら“競技会”に出品しない酒蔵(廣木酒造大七酒造など、*リンクは福島県南酒販(株))にも旨い酒は数多い。

福島県は、確かな醸造技術に裏打ちされた旨い酒が多い“日本酒王国”になっている。

 

 

私は福島にUターン帰郷し不思議に思ったのが、これだけ質の高い日本酒が数多くありながら、駅などの公共の施設や“まちなか”で手軽に複数種の地酒が吞む事ができないことだった。

隣県(宮城、山形、新潟)では駅や駅に近い場所で“利き酒自販機”や“試飲自販機”などが設置されている事を知り、福島酒が新酒鑑評会で金賞を受賞するたびに、その不可解さを深め、県外から訪れる方々に“日本酒王国・福島”を認知していただける機会逸失を悔いていた。

 

そんな中、先月地元紙に「自販機」が会津田島駅に設置された記事が掲載されたのを見て、『やっとか』と思った。 *記事出処:福島民報 2018年4月22日付け紙面より

今回は、福島県で初めて会津田島駅に設置された「地酒試飲自販機」の性能を体感し、この機器がJR只見線内に設置できないかを考えたいと思い、南会津町まで足を伸ばした。

*参考

・東日本旅客鉄道株式会社:「只見線について」(PDF)(2013年5月22日) / 「只見線(会津川口~只見間)の鉄道復旧に関する基本合意書及び覚書」の締結について(PDF)(2017年6月19日)

・拙著:「次はいつ乗る?只見線」カテゴリ ー只見線沿線の食と酒ー / ー只見線の夏

 

 


  

 

会津田島駅は南会津町の中核駅で、駅舎は大きい。この駅から、3つの鉄道会社を跨いで直通している東京・浅草(東武鉄道)までは電化区間となっていて、浅草行き特急列車(リバティー号)の発着点ともなっている。

 

四軒の蔵元を持つ南会津町は県内有数の“日本酒のまち”だ。三軒が旧田島町地区に集中し、旧南郷村地区にある花泉酒造は町の中心部から西に大きく離れている。

  

駅舎の壁には地元紙の号外の拡大版が貼られていた。

  

構内の発券窓口に脇にも地元紙号外のコピーが大小貼られていて、その快挙を盛り上げていた。

今回の鑑評会では南会津町から会津酒造「大吟醸 田島」と国権酒造「純米 国権」が金賞を得た。「開當男山」(渡部謙一杜氏)は入賞し、私の住む中通り・郡山市でよく見かける「花泉」は受賞を逃したが、『南会津町の酒は美味い』と日本酒愛飲家には馴染みが深い町だ。

  

会津田島駅に「地酒試飲自販機」に設置されることは違和感は無く、東京・浅草とを直通で結ぶ特急列車「リバティ」号の運行1周年という出来事が導入を後押ししたようだ。

  

 

「自販機」は待合室の出入口の脇に設置されていた。
 

「南会津 銘酒蔵」という名があるようで、木目調の躯体は日本酒が出てくる機械としては雰囲気があった。“営業時間”(稼働時間)は10:00~19:30.

 

町内四蔵元から1点ずつと“今月のおすすめ”の計5種の日本酒のラベルが貼られ、説明書きも記されていた。

 

「冷酒」として提供して、機器の下には一升瓶を10本以上収められる冷蔵庫があり、封切られた瓶にはチューブが取り付けられていた。

 

「地酒試飲自販機」を設置した南会津駅の関係者に話を聞くと、この機器は石川県のメーカー製という。

調べてみると、醸造機械や酒具を製造している(有)村上商店(金沢市尾張町2-7-12)がそのメーカーだと思われる。全国に卸していて、形状は一様ではなく、複数の「試飲自販機」を取り扱っている。

 

この「南会津 銘酒蔵」は紙幣や硬貨は使えず、隣の駅売店で購入する専用コイン(200円)を利用する設定になっている。 *他地域では100円などで販売している機器もある。

 

 

さっそく専用コインを買い、試してみる。


中央の注ぎ口の扉を開け、機器脇に備え付けられた小さなプラスチックコップを丸いガイドの中に置く。

扉を閉めて、専用コインを投下し、緑のボタンを押す。

  

すると勢いよく日本酒がコップに注がれた。音は意外に心地よい。

注ぎ終わったら、再び扉を開けて、終了となる。

大吟醸が50cc、他70ccという設定になっている。

  

客はここで呑んで気に入った銘柄を、専用コインを買った売店や、駅構内のふれあいステーションプラザ1Fの地域物産アンテナショップ「売店やまなみ」で四合瓶や一升瓶で購入する。この「自販機」はこの流れを期待している。

購買へ誘引するのであればワンコイン100円が理想であるが、低価格で呑めることで、客は『買ってみようか』と思い、呑み比べられることで選ぶ楽しみも得られるとまずは思った。


 

試飲。

私は全ての銘柄を呑もうと、この動作を5回繰り返した。

5種目は“今月のおすすめ”で、月替りで四軒の酒蔵がそれぞれ勧める銘柄を置くという。今月は会津酒造の「山の井」だった。

 

大吟醸は50ccだが、他(70cc)と変わらぬような分量だった(写真は左から「開當男山」大吟醸-「會津」純米-「国権」純米吟醸-「花泉」純米-「山の井」純米吟醸)。

まずはサッパリとした純米酒からと「會津」から呑んだ。想像通り、期待を裏切らない純米酒の味だった。
次は「花泉」。やや深みのある純米酒だった。
続いて、2種の純米吟醸。「国権」は意外とスッキリしていて、軽やかな香りが鼻を抜けた。「山の井」は香りもさることながら、まろやかな口当たりだった。大吟醸はどうなのだろうか、と思ってしまう出来だと思った。

最後は「開當男山」の大吟醸。コップに口をつける直前から厚みのある香りが鼻を通り、呑むと、また一層重厚な香りが鼻を抜け、口当たりのまろやかさに『これぞ大吟醸!』と唸ってしまった。大吟醸が手軽に呑めてしまう、この自販機の開発者に頭が下がった瞬間だった。

 

  

 

今回、福島県初の「地酒試飲自販機」を体験し、“日本酒王国”を自負する福島県には必要な機器である事を実感した。

操作が簡単で、一升瓶から継がれるという日本酒の雰囲気を実感できる。日本酒という酒に抵抗感のある方が多い事を考えれば、この「試飲自販機」はその心の壁を下げる効果があり、日本酒の販売には必要な仕掛け、装置であると思う。

 低価格(100~200円)で、一杯、少量を呑め、しかも純米・吟醸・大吟醸と試せ、自分に合った銘柄・品種に出会う効果が高まる。ワインコイン(100円、500円)に価格設定すれば、客の気軽さも増し、日本酒の入口が多くの方に開かれるだろう。

   

“日本酒王国”を喧伝する福島県を訪れた方が、気軽に、好みの銘柄を口にできる環境整備は必須だと私は思う。 *参考:福島県観光復興推進委員会「日本酒王国ふくしま酒蔵特集

 

福島県を囲む、宮城県、山形県、新潟県には「試飲自販機」がある。新潟にいたっては二箇所でそれぞれ県内全銘柄が呑めるという。

・宮城県:仙台駅エスパル仙台 東館2階「藤原屋みちのく酒紀行

・山形県:山形駅近く「山形まるごと館 紅の蔵」 *日本酒サーバー 

・新潟県:新潟駅CoCoLo新潟「ぽんしゅ館 新潟店」、越後湯沢駅CoCoLo湯沢「ぽんしゅ館 越後湯沢店

 

この「地酒試飲自販機」は福島県内に広く設置されるべきであり、新幹線駅の福島と郡山、観光拠点の会津若松の3駅には早急に導入する事を希望したい。

 

 

そして、只見線内。

沿線の日本酒の醸造所は、始点の会津若松市と会津美里町、会津坂下町にあり、沿線の奥会津地域(柳津町、三島町、金山町、昭和村、只見町)には無い。

会津若松市(会津若松酒造協同組合:花春酒造名倉山酒造辰泉酒造鶴乃江酒造末廣酒造石橋酒造場高橋庄作酒造店宮泉銘醸山口)、会津美里町(白井酒造店)、会津坂下町(曙酒造豊国酒造廣木酒造*福島県南酒販(株)HPより)

 

しかし、列車と酒の親和性、国内有数の乗って景色を楽しめる鉄路、そして酒どころ・会津を走るという点を考えると、乗客が只見線内各所で日本酒を楽しみたいと思うのは必然で、設置する必要性を大いに感じる。

  

 

まずは、始点で多くの酒蔵を持つ会津若松と県内終点の只見の二箇所に設置。その後、会津坂下に坂下町の三蔵元と美里町の白井酒造店の銘柄が呑める機器を導入するのはどうかろうか。

 

私は列車内で呑むワンカップに風情を感じ、旅情を掻き立てられている。だから、最終的に只見線内に「ワンカップ自販機」を設置し、“県内全ての酒蔵の日本酒を詰めたワンカップが只見線に乗ると呑める”という環境実現される事を望んでいる。この「ワンカップ自販機」は常温・冷・燗を選べればベストだとも考える。

しかし、ワンカップを製造販売していない酒蔵もあり、ワンカップが本醸造などに普通酒だけという現状を考えると、私が希望する「ワンカップ自販機」が製品化され設置される道は遠い。

現状、この「地酒試飲自販機」が只見線内に設置され、豊富な“”会津の酒が呑める路線として認知され、多くの方が車窓からの景色と旨い酒を求め乗車する事を期待したい。

 

 酒類販売業免許や卸問屋などの複雑で高い壁があるかもしれないが、「上下分離」で只見線の経営の一部に関わる福島県が中心となり、線内での「地酒試飲自販機」の設置を進めてほしい。

  

  

会津田島駅「地酒試飲用自販機」で取り扱われている南会津町の日本酒の酒蔵の情報を以下に記す。「花泉酒造」以外は、今日、現地を訪れた。

 

開當男山酒造 URL:http://otokoyama.jp/

・所在地:南会津郡南会津町中荒井字久宝居785(会津鉄道会津線・中新井駅徒歩5分)

・創業:1716(享保元)年

・主な銘柄:「開當男山」各種 、「純米大吟醸 久宝居」

蔵は国道121号線沿いにあり、重厚な佇まいで貫録を感じる。入口までの距離が遠く、直販スペースがあるのか分からなかった。開當男山の“開當”とは三代目渡部開当(はるまさ)氏の名だという。

  

 

会津酒造㈱ URL:http://www.kinmon.aizu.or.jp/

・所在地:南会津町永田字穴沢603(会津鉄道会津線・会津田島駅 徒歩20分)

・創業:1688~1704年(元禄年間)

・主な銘柄:「会津」各種、「山の井」各種、「大吟醸 田島」

蔵は国道289号線沿いにあり、道路から事務所が見え、直販スペースがあるのが分かる。

入口に進むと、「山の井」を創り出した杜氏の渡部景大氏がちょうど居て、店内に案内された。そこでは、風情ある店内で、氏の弟さんから酒蔵について色々とお教えいただいた。

「山の井」は杜氏・渡部景大氏の個性の塊という事で、全国から取り寄せた酒米を使い、氏の感性で醸造。様々な種を全国の特約店に卸しているのだという。原料を地元産にこだわる「會津」と双璧を成すブランドになりつつあるようだ。

今回は「會津」の純米酒四合瓶とワンカップを購入し、蔵から直出しされたものを渡され、後にした。

  

 

国権酒造㈱ URL:http://www.kokken.co.jp/

・所在地:南会津町田島字上町甲4037(会津鉄道会津線・会津田島駅 徒歩5分)

・創業:1877(明治10)年

・主な銘柄:「国権」各種、「てふ」、「純米大吟醸 一吉」

会津田島駅から近い、国道121号線沿いにある。

「新酒鑑評会」で金賞を受賞したことから、直販所の表と中に胡蝶蘭が飾られ、華やかだった。棚に並べられた酒の大半は箱に入っているため、瓶付けの日付を確認できないが、冷蔵品も含め大半の品種があり豊富だった。ここでは本醸造の四合瓶を購入した。

  

 

花泉酒造合名会社 URL:http://hanaizumi.ne.jp/

・所在地:南会津町界字中田646-1(会津鉄道会津線・会津田島駅 車40分)

・創業:1920(大正9)年

・主な銘柄:「花泉」各種、「口万(ろまん)」各種

 

南会津町の西、旧南郷村にある酒蔵。今回は時間の都合上、訪れる事はできなかった。

只見町にある「ねっか 奥会津蒸留所」の代表社員である脇坂氏はこの蔵の出身だという。

 

中通り・郡山市のスーパーに並ぶ一升瓶を見る事が多く、町内の他三銘柄より知られている酒だと思う。私もよく呑む。

2007(平成19)年に発売開始されたという「口万」(ろまん)は、ラベルの美しさでも目を引き、女性が手に取りやすいような華やかさがある。

 

 

(了)




*参考:南会津町観光物産協会「南会津のお酒」/東武鉄道(株) 「電車で会津の旅 南会津町の4つの酒造所を紹介」(2014年1月) 

・  ・  ・  ・  ・

*参考:

・福島県:只見線ポータルサイト

・NHK:新日本風土記「動画で見るニッポンみちしる~JR只見線」 

・福島県 生活環境部 只見線再開準備室:「只見線の復旧・復興に関する取組みについて

 

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以上、宜しくお願い申し上げます。

次はいつ乗る? 只見線

東日本大震災が発生した2011年の「平成23年7月新潟福島豪雨」被害で一部不通となっていたJR只見線は、会津川口~只見間を上下分離(官有民営)し、2022年10月1日(土)、約11年2か月振りに復旧(全線運転再開)しました。 このブログでは、車窓から見える風景写真を中心に掲載し、“観光鉄道「山の只見線」”を目指す只見線の乗車記や「会津百名山」等の山行記、利活用事業に対する私見等を記します。

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