昨夏(8月)の大雨で被害を受け部分運休していたJR五能線は、昨年末(12月23日)に全線運転再開した。“観光鉄道「山の只見線」”を目指すJR只見線が手本とする「海の五能線」全線を乗り通そうと、今回は普通車両(GV-E400)に乗車した。
「平成23年7月新潟・福島豪雨」を受け部分運休に追い込まれた只見線は、運休区間(会津川口~只見間27.6km)を「上下分離(官有民営)」方式で保有することになった福島県が中心となり「只見線利活用計画」を策定(2018年3月)した。その中の重点プロジェクトの最上位に、「目指せ海の五能線、山の只見線プロジェクト」が置かれた。*下図出処:福島県「只見線利活用計画」表紙と18ページ URL: https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/16005g/rikatuyou.html
「只見線利活用計画」策定年の8月には、福島県知事と沿線首長は五能線を走る観光列車「リゾートしらかみ」号に乗車し、五能線沿線の観光地を巡るという視察を行った。*下掲記事:福島民報 2018年8月30日付け紙面
この五能線が、昨年8月3日から2週間ほど断続的に続いた大雨により、橋梁傾斜や道床流出など約70箇所の被害を受け、岩館駅(秋田県八峰町)~鯵ヶ沢駅(青森県鯵ヶ沢町)間(74.7km)が区間運休に追い込まれた。*参考:国土交通省「8月3日からの大雨による被害状況等について(第12報)」 (令和4年8月12日 08:00現在) URL: https://www.mlit.go.jp/common/001496946.pdf / 下図出処:JR東日本秋田支社「大雨に伴う秋田支社管内の被害と今後の見通しについて」(2022年8月25日) URL:https://www.jreast.co.jp/press/2022/akita/20220825_a01.pdf
この被害を受け、JR東日本(秋田支社)は早々に復旧工事に着手し、12月9日には岩館駅~深浦駅(青森県深浦町)間(37.8km)が運転再開し、その後残る深浦駅~鯵ヶ沢駅間(36.9km)の復旧工事が終わり、同月23日に全線運転再開することになった。*下掲記事:秋田魁新報 2022年12月24日付け一面 *当該記事以外、筆者がボカシ加工
また、翌24日には五能線の顔ともいうべき観光列車「リゾートしらかみ」号が、全区間(秋田駅~青森駅間247.6km)で運転を再開し、年末年始の旅行シーズンに間に合った。*下掲記事:秋田魁新報 2022年12月25日付け
私は過去に「リゾートしらかみ」号に乗って、五能線全区間を乗車したことはあったが、普通列車で全線を乗り通したことは無かった。今回の旅では全線運転再開を機に、初めて冬の五能線を楽しもうと、キハ40形から2020年12月に入れ替わったJR東日本の電気式気動車「GV-E400」系に弘前駅から乗る計画を立て、現地に向かった。*参考:拙著「【参考】観光列車「リゾートしらかみ」乗車記 2020年 夏」(2020年8月10日) / 「【参考】JR五能線「リゾートしらかみ」号 乗車記 2008年 夏」(2008年8月15日)
*「五能線」参考記事等
・JR東日本 秋田支社「五能線リゾートしらかみの旅」/絶景マッチング「五能線」
・国土交通省「第16回 日本鉄道賞」(PDF)(2017年9月29日)
・全国町村会:町村長随想「五能線は健在なり-秋田県八峰町長 加藤和夫-」(2010年1月18日)
・ITmedia ビジネスオンライン:地方創生のヒントがここにある「廃止寸前から人気路線に復活した「五能線」 再生のカギは“全員野球”の組織」 (2016年9月6日)
・PHP Online衆知:遠藤功(ローランド・ベルガー日本法人会長)「五能線にみる「秋田発」のイノベーションと地方創生」(2016年7月23日)
早朝、上りで唯一の五能線全区間を直通運行する列車に乗るために弘前駅に向かった。雪は降っておらず、風も出ていないため、五能線の列車は予定通り運行されるだろう、とこの時は思っていた。
五能線は只見線と違い降雪・積雪ではなく、海沿いを走るため強風による遅延や運行中止があるとの事だった。年が明けた2日には、強風により普通列車12本が運休や区間運休し、「リゾートしらかみ」号などで最大53分遅れが発生したという。*下掲記事:東奥日報 2023年1月3日付け紙面
「GV-E400」系は磐越西線に導入されたのを機に、キハ40・48の更新車両としてJR東日本管轄の非電化路線に広がり、只見線では臨時列車として運行された。私も磐越西線で乗車したことがある。ただ、五能線の「GV-E400」は「海の五能線」ということで、青のグラデーションのラインが引かれ違う外観になっている。
また内装も違い、座席は青で、天井などには世界自然遺産「白神山地」のブナをイメージした木目調のデザインとなっていた。
6:47、五能線経由の東能代行きの快速列車が弘前を出発。私が乗った先頭車両には5人、後部車両には10人という乗客だった。
列車は奥羽本線を進み、2つ先の川部(五能線の終点)に停車し、運転手が移動し進行方向が変わり五能線に入った。
川部を出ると、列車はリンゴ畑の間を進んだ。東には青森県最高峰「岩木山」(1,624.6m)が、均整のとれた両裾を延ばしていた。
藤崎、林崎を経て板柳では多くの客が乗車し、ほとんどが高校生だった。鶴泊や陸奥鶴田でも高校が乗り込み、車内は混雑した。只見線でいえば、この時間帯の会津坂下駅に向かう車内の様相だった。
7:31、列車は五所川原に停車。高校生を中心とする多くの客が降りた。五能線は五所川原市との能代市を結ぶ路線で、それぞれの頭文字を取っている。
五所川原駅からは北の中泊町に向かって、ストーブ列車で有名な津軽鉄道が走っている。途中駅・金木は作家・太宰治の生家である「太宰治記念館 斜陽館」の最寄りだ。*参考:太宰ミュージアム URL: https://dazai.or.jp/
ホームから空を見ると青空があり、今日の天候は問題なさそうだと確信した。縦型の駅名標を見ると、JRマークがリンゴに記されていた。
また、駅舎の方に目を向けると、大きく華やかな「五所川原 立佞武多」(毎年8月4日~8日)の看板が立てられていた。
...ホームで写真を撮って列車に戻ると、驚きの車内放送が聞こえてきた。『この列車は、行き先を変更し、鯵ヶ沢止まりになります』と。少し時間置いて、今度は『落石の影響で、鯵ヶ沢より先の運転を中止します。この列車は鯵ヶ沢止まりになります』と運行中止の理由が放送された。
この放送を聞き、一瞬弘前に引き返して帰る事も頭をよぎったが、まだどうにかなる時間だと思い直し、このまま乗車することにした。
7:58、五所川原を出発すると、列車は西に進路を変えた。車窓に目を向けると「岩木山」が、変わらぬ稜線を見せていた。“津軽富士”と呼ばれるだけの存在感だった。
次駅・木造に停車すると、車内に残っていたすべての高校生が下車した。彼らが向かうであろう県立木造高校は、元力士・舞の海関(鯵ヶ沢町出身)の母校として有名だ。
高校生を降ろした車内は、閑散した。私が乗った車両(後部)の客は、3人だけになった。
この後、車内放送で、鯵ヶ沢駅から先に代行バスが運行される事が案内された。これで引き返すことなく、東能代駅に行けることになり、とりあえず安心した。
中田、陸奥森田、越水、鳴沢と平地の駅を経て、秋田犬・わさおが飼われていた「きくや商店」を見上げ、国道101号線の高架を潜った。*参考:東奥日報 Web東奥「わさお通信」 URL: https://www.toonippo.co.jp/category/blog-wasao
そして、列車は日本海に出た。本来ならば、ここから岩館駅までの約75km、列車から海を眺めながらのんびりと行く事ができるはずだった。
8:25、列車は、定刻に鯵ヶ沢に到着。“鯵ヶ沢止まり、この先運行中止”との状況は変わらず、列車を降りて駅舎に向かった。
駅舎に入って、振り返って扉の上を見ると、時刻表の下に“五能線 全線運転再開”との飾りが貼られていた。ただ、以前、駅舎内に立てられていた「わさお」の写真が貼られたボードは、残念ながら置かれていなかった。
改札前で、係員が『代行バスに乗られる方は?』と尋ねていたので手を挙げて近づくと、『外に停まっているバスに乗ってください』と言われた。駅頭には、大型の観光バスが停車していた。
係員に聞くと、深浦駅には列車が待機し東能代行きとして運行を予定しているが、代行バスの到着時間如何では乗り継ぎができない可能性がある、とのことだった。『待ってくれればいいのに...』とは思ったが、全席指定の「リゾートしらかみ」号の運行が優先されるためだと考え、代行バスが時間通りに深浦駅に到着することを願うことにした。
8:25、代行バスは3人の客を乗せて、鯵ヶ沢駅前を出発。
代行バスは国道101号線を進み、5分ほどで赤石漁港が見え、以後海沿いを走った。
五能線よりも、波打ち際が良く見える区間を進む事もあり、この点では代行バスも良かったと思った。
ただ、隣に五能線のレールを見ると、やはり列車が良かったと思い直した。
ここは、列車の中よりも、千畳敷の様子が見えた。*参考:青森県観光情報サイト「千畳敷海岸」 URL: https://aomori-tourism.com/spot/detail_72.html
千畳敷駅から代行バスは北西から南西に進路を変え、大戸瀬駅前後で2度五能線と交差し、まもなく風合瀬(かそせ)海岸を見ながら進んだ。
風合瀬海岸では、テトラポットにぶつかり、高々と飛沫を上げる波も見られた。
風合瀬駅手前で架道橋を潜り交差すると、五能線は深浦駅の手前まで国道より海寄りに延びていた。轟木駅~追良瀬駅間の海岸線を列車内から見られなかった事を、残念に思った。
9:19、列車が広戸駅の脇を通ると、ホームに列車が停車(待機)していた。落石は広戸~深浦間で発生したようで、行き先表示から、この列車は鯵ヶ沢6時23分発東能代行きと思われた。
広戸駅の先、深浦駅に向かうレールの脇に立てられた警告灯と思われるLEDが、赤色で点滅していた。
代行バスが行合崎海岸ビューポイント付近を通りすぎると、入江の対岸に深浦町の市街地北端が見えた。
9:23、代行バスは深浦駅に到着。鯵ヶ沢駅まで乗車した列車の到着予定時間より、6分オーバーしただけだった。
駅舎に入ると、改札前にホワイトボードが置かれ、“五能線落石の為 区間運休”の情報が書かれていた。駅員からは、『東能代行きの列車は、皆さんが乗り込み次第出発しますので、急いでください』と言われた。
駅舎を抜けると、1番線に「GV-E400」2両編成が停車していた。
代行バスからは3人のうち私を含め2人が乗り込んだ。
後部車両の席に座り、外を見ると、駅に隣接する駐車場のフェンスに“おかえり五能線! おめでとう!”と記された横断幕が張られていた。
五能線が区間運休中、JR東日本㈱秋田支社は“五能線応援団体旅行”や“五能線つがる応援フェア”を企画・開催するなど、観光需要を創出し沿線を支えた。今回、五能線は5カ月ほどの分断だったが、「リゾートしらかみ」号の25年に渡る運行で、観光産業を定着させ地域になくてはならない路線になっていることを知った。*下掲出処:東日本旅客鉄道㈱秋田支社「今こそ行って応援しよう!五能線沿線応援団体旅行商品のご紹介!」(2022年9月16日) / 「JR 横浜駅で「8 月豪雨災害 五能線つがる応援フェア」を開催します!」(2022年10月26日)
9:27、東能代行きの列車が、深浦を出発。後部車両は私一人だったので、良い景色があったら窓を開けて撮影してみよう、と思い窓を開けたが、「GV-E400」が内倒し窓だったことを忘れていた。
五能線も、只見線同様二県(青森県-秋田県)にまたがっているので、車内でそれぞれの地酒を呑む事にした。青森の酒は、桃川㈱の「桃川 にごり酒」にした。
つまみは、八戸市のマルヨ水産㈱の「かもめ ちくわ」。
「GV-E400」系にはテーブルは付いていないが、窓枠の部分が広くなっている。只見線を走るキハE120形のそれは幅が狭く、ワンカップの底が一部浮いてしまい安定しないが、この列車では安定して置けて安心できた。
「桃川 にごり酒」は、酸味と甘みは控えめで、濃厚ながらさっぱりとした吞み口で旨かった。雑味が無い白身の旨さが感じられる「かもめ ちくわ」との相性は良く、車窓を流れる海の景色を眺めながら楽しく呑む事ができた。
また、今回五能線では西村京太郎氏の本を読んでみようと思い、文庫本「五能線の女」を手に入れておいた。
列車が海岸線に近づく度に、文庫本から目を離し、車窓から外を眺めた。横磯手前では、海岸線に田んぼがあった。
艫作を経て、ウェスパ椿山を過ぎると、列車は短い区間ではあるが進行方向を東に変え、岩崎漁港の裏手を進んだ。
陸奥岩崎を通過し進路を南に変えた列車が、岩崎海岸沿いを駆け抜けると巨岩の景勝地・汐ケ島が見えた。
続いて、JR東日本管内で一番短い「仙北岩トンネル」(9.5m)を抜けると、ガンガラ穴を持つ小さな岬も見えた。
そして、前方が開けると、左(東)に「白神岳」(1,232.4m)と、先の方で突き出た県境の「大鉢流山」(625.9m)の海側に落ちてゆく稜線が見え、なかなか良い眺めだった。
9:51、景勝地「青池」の最寄り十二湖に停車。前回の訪問では、ここから輪行した自転車で「青池」に向かった。*参考:青森県観光情報サイト「十二湖/青池」 URL: https://aomori-tourism.com/spot/detail_73.html
松神、白神岳登山口を通過すると、列車は黒崎地区大浜の海岸沿いを駆けた。
青森県側最後の駅・大間越を通過し、第一大間越トンネルを抜けると、前方に影の浜(南大間越海岸)が見えた。
影ノ浜を過ぎて振り振り返ると、荒々しい海岸線の向こうに平坦に延びる舮作岬が見えた。良い景色だった。
列車は徐々に高度を上げ、「大間越街道ビューポイント」を通過した。荒々しい岩場を見下ろす事になった。 五能線は、海岸線の多様さもさることながら、低い位置と高い位置から海を眺められるというのも魅力であることが、今回の旅で実感できた。
県境となる須郷岬に続く岩場の荒々しい海岸線は、冬の日本海に合っていると思った。
10:09、列車は秋田県に入り、岩館に停車。まもなく、向かい側のホームで待機していた、「リゾートしらかみ」1号(橅編成)が発車した。定刻から5分遅れの出発となったようだが、この先青森までたどりつけるのだろうか、と心配になった。
岩館を出ると、秋田のワンカップの呑んだ。選んだのは定番「高清水」(秋田酒類製造㈱)の「無濾過純米酒」。純米酒に期待するすっきり感を邪魔しない上品なコクと、冷やしても感じられる香りに、『さすが』と思いながら呑んだ。旨い酒だった。
あきた白神、滝ノ間、八森を通過し、国道101号線沿いの鹿の浦展望所を通過し、日本海の見納めとなった。先に続く海岸線には、風車が目立っていた。
列車が内陸を進んでも、風車が目についた。
秋田県沿岸は日本海からの風が強く、陸上風車による風力発電が普及している。そして先月22日に能代港湾区域では20基の洋上風車が本格稼働した。今後、秋田港湾区域で13基の稼働が予定され、八峰町沖から由利本庄市沖にかけての海域が国の“風力発電促進区域”に指定されていることもあり、沖合での大規模な洋上風力発電が計画されているという。*下掲記事:秋田魁新報 2023年1月3日付け一面 / 経済産業省「「秋田県能代市、三種町及び男鹿市沖」、「秋田県由利本荘市沖」、「千葉県銚子市沖」における洋上風力発電事業者の選定について」(2021年12月24日)
只見線の福島県側沿線を流れる只見川では、国内屈指の水力発電がおこなわれいるが、五能線でも風力という自然エネルギーを用いた、国内屈指の発電地帯になろうとしている。「海の五能線」と「山の只見線」の“再生可能エネルギーによる発電”という共通項が増え、同じ東北ということもあり、両路線が連携すれば集客や交流人口の増加に繋がるのではないかと感じた。
東八森、沢目、鳥形、北能代、向能代を通過し、列車は能代に停車。向かい側のホームには、「リゾートしらかみ」号の乗客に対するアトラクションの道具であるバスケットボールのゴールが見えた。高校バスケ界に長らく名をとどろかせた県立能代工業高等学校(現 能代科学技術高等学校)にちなんだものだ。
10:40、能代を出た列車は、次駅の終点・東能代に到着。本来の到着時刻から、わずか3分遅れただけだった。
ここにもイラスト、観光地説明入りの駅名標があったが、接続する奥羽本線の駅名は記されていなかった。この駅名標は、五能線内だけで機能するものであるようだ。只見線でも参考になるものだと思った。
2-3番ホームには、「リゾートしらかみ」号「くまげら」編成のイラストが描かれた待合室があり、今回初めて入ってみた。
引き戸を開けて中に入ると、出入口に接するように列車の運転台が置かれ、自由に操作できるようになっていた。。キハ58系のもので、「リゾートしらかみ」号の「くまげら」編成(キハ48系)の運転台とは違うが、正面に据えられたディスプレイには五能線の映像が流れていた。
椅子やテーブルが置かれた室内の奥には、五能線と「リゾートしらかみ」号の停車駅が記された地図と、「橅」編成を紹介するパネルが掲示されていた。
地図は立体的で見やすく、只見線でも参考になるようなものだった。「リゾートしらかみ」号の紹介パネルに載せられたボックス席と展望室の写真は、普通列車では味わえない特徴を捉え『乗ってみたい』と思わせるものだった。
待合室を出て連絡橋を渡ると、階段の両側に五能線をPRする縦長のポスターが貼られていた。もちろん、写っている列車は「リゾートしらかみ」号(青池編成)で、専用観光列車の持つ訴求力を考えさせられた。
一旦改札を抜け駅舎内に入ると、窓口の上部に運行情報をリアルタイムで表示するディスプレイが設置されていて、区間運転見合わせしていた五能線が10時45分頃に運転再開見込みとなることを表示していた。現在10時50分なので、既に運転再開していて、途中ですれ違った「リゾートしらかみ」1号(橅編成)は青森に向けて走行しているだろうと思った。
11:22、奥羽本線の上り普通列車に乗り、東能代を後にした。
12:26、秋田に到着し、改札を抜けると目の前に、「なまはげ」と思われる赤と青の巨大な御面があった。
そしてその隣には、これまた巨大な秋田犬の置物(ぬいぐるみ!?)が座っていた。構内に多く飾られた秋田竿灯まつりの提灯をはじめ、「なまはげ」と秋田犬など、“それを見れば秋田”とわかるキャラクターやモノが多いと、改めて感じた。
この後、列車を乗り継いで、自宅のある郡山に戻り五能線の旅を終えた。
今回、五能線の普通列車(の車両)で全線を乗車は、代行バス乗車で中断されたが、「リゾートしらかみ」号とは違った体験ができ良かった。
普通列車と「リゾートしらかみ」号は、車窓に流れる景色そのものは変わらないが、「リゾートしらかみ」号は景観区間で徐行運転するなど乗客=観光客に配慮した運転をしているという違いがあり、景色は違って見える。また、列車内の座席やインテリアなどのホスピタリティーの違いで、その印象や乗車後の感想は大きく変わる事を実感した。
確かに、JR東日本最新の電気式気動車「GV-E400」は加速が素晴らしく、空調も申し分なかった。しかし、加速や変速の度に床下から聞こえるディーゼルエンジンの音は小さくなく、伝わる振動も気になってしまった。座席や窓などを含め「GV-E400」は、生活利用者が“移動”という目的を果たせ、メンテナンスが容易で耐久性を持つという考え方の下で製造された列車だ。
だが、五能線には別に専用観光列車があり、旅気分を保ち車窓の景色を楽しみたい思う観光客は「リゾートしらかみ」号に乗るという選択肢がある。事実、乗車券と指定券のみで乗れる快速列車ということもあり、「リゾートしらかみ」号には大半の観光客が乗車し多くのリピーターも獲得している。*下図出処:JTBパブリッシング「2022年10月 JTB時刻表」(p644~647) *筆者、抜粋と加工
今回の五能線の旅で、鉄路が持つ観光力を乗客に伝え味わってもらうには観光列車が必要、ということも再確認した。
他方、只見線には専用の観光列車は、未だ無い。*下図出処:JTBパブリッシング「2022年10月 JTB時刻表」(p616) *筆者、抜粋と加工
JR東日本管内で運行される観光列車が、臨時に乗り入れているのが現状だ。唯一トロッコ列車「風っこ」号が、春・夏・秋の一時期に運行される“定期運行”とも言えるようになったものの、2週末計4日ほどで観光需要を拾い切れていない印象がある。また、「風っこ」号の座席は背もたれが直角の木製で、長時間の乗車には不向きだ。
11年2カ月ぶりの全線運転再開した只見線は、冒頭に記したように福島県を中心に「只見線利活用計画」を策定し“生活利用から観光利用”を促進する鉄路になった。2018年に「利活用計画」の事業が本格的に始まったが、残念ながら、“観光鉄道一丁目一番地”の施策ともいえる観光列車の導入には至っていない。
「只見線利活用計画」は今年第二期を迎える事になり、昨年12月2日に行われた第5回検討会議がでは、“重点プロジェクト(PJ )”のたたき台となる案が示されたという。「目指せ海の五能線、山の只見線」PJでは、“オリジナル観光列車の導入に向けた運行方策等の検討”ということで、第一期の“企画列車”から“オリジナル観光列車”と変更され、只見線専用観光列車導入が具体的に動き出すのでは、という期待を抱かせるものになった。*下掲記事:福島民報 2022年12月3日付け紙面 *赤傍線は筆者
だが、“運行方策等”、“検討”という文言から、2023年度の予算は“調査費”にとどまり、実際の観光列車の導入は来年以降になってしまう事が予想される。
只見線の専用観光列車は、“只見線10.1”の熱が冷めず、“御祝儀混雑”が続いているうちに導入されることが効果的だ。そのためには、2023年度中に専用観光列車導入に対する補正予算が組まれるほどの世論の盛り上がりと(知事の)政治的決断が必要だ、と私は思っている。
“観光鉄道「山の只見線」”の確立のためには只見線専用の観光列車は必要不可欠で、「海の五能線」の成功体験・事例を参考にし利活用施策に応用するための基盤ともなる。是非、只見線を走る列車の車窓に流れる、のどかで心落ち着く風景を多くの乗客が楽しめるよう、只見線専用観光列車を一日でも早く導入して欲しい。
(了)
【只見線関連情報】
*参考:
・福島県・東日本旅客鉄道株式会社 仙台支社:「只見線全線運転再開について」(PDF)(2022年5月18日)
・福島県:只見線ポータルサイト/只見線の復旧・復興に関する取組みについて * 生活環境部 只見線管理事務所(会津若松駅構内)
・東日本旅客鉄道株式会社:「只見線について」(PDF) (2013年5月22日)/「只見線(会津川口~只見間)の鉄道復旧に関する基本合意書及び覚書」の締結について(PDF)(2017年6月19日)
・NHK:新日本風土記「動画で見るニッポンみちしる~JR只見線」
・産経新聞:「【美しきにっぽん】幾山河 川霧を越えてゆく JR只見線」(2019年7月3日)
・福島県:平成31年度 包括外部監査報告書「復興事業に係る事務の執行について」(PDF)(令和2年3月) p140 生活環境部 生活交通課 只見線利活用プロジェクト推進事業
【只見線への寄付案内】
福島県はJR只見線全線復旧後の「上下分離」経営での維持費や集客・地域振興策の実施費用として寄付を募集中(クレジット可)。
①福島県ホームページ:只見線復旧復興基金寄附金・只見線応援団加入申し込みの方法 *現在は只見線ポータルサイト「只見線応援団」URL:https://tadami-line.jp/support/
②福島県:企業版ふるさと納税
URL:https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/16005g/kigyou-furusato-zei.html
[寄付金の使途]
(引用)寄附金は、只見線を活用した体験型ツアーや周遊ルートの整備、只見線関連コンテンツの充実化等に活用させていただきます。 沿線地域における日本一の秘境路線と言われる観光資源を活用し、更なる利用者の拡大と認知度向上を図ります。
以上、よろしくお願いします。
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